「ごめんね。急に呼び出してしまって。待ってたわ、ミーア」

 私は笑顔のまま、ミーアを部屋に招き入れた。
 部屋には父に隠れて買った、美味しい紅茶とクッキーが用意してある。

 クッキーにはチョコが半分コーティングされ、その上にカラフルな何かが散らしてある。
 少し前に買ったけど、もったいなくて取っておいたものだ。

 賄賂(わいろ)にしてはささやかすぎるけど、私たちにとってお菓子はかなりの贅沢品だ。
 父の元で働いていても貰える金額は微々たるもの。
 それでも私は、彼らの二倍もらえているけど。

 だけどこうやってお金が余っていると見つかってしまうと、父に没収されてしまうから。
 だからここではこういう贅沢をしないのが暗黙のルールなのだ。

「えー。お菓子なんてどうしたんですか? 執務室で一体何かあったんです?」
「ちょっと困ったことが起きちゃって。ミーアに少しお願いしたいことができてしまったの。でもまぁ、とにかく座って。食べながら話しましょう。紅茶が冷めてしまうわ」
「確かに、それは一大事ですね」
「でしょう?」

 驚いたようにお菓子と私を交互に見ながら、ミーアは部屋の椅子に腰かけた。
 簡素な木のテーブルに、同じ木の椅子。
 座り心地は安定に悪いけど、それでも気分は華やかなお茶会だ。

 いつかきちんとお金を稼げるようになったら、もっとマトモなお茶会がしたいものね。
 結局死ぬ前だって、貴族らしい食事をしたこともなかったし。