私は床に視線を落とし、ただ一人ため息をつく。

「そんなに興奮したら体に障るよ、母上」
「でもダミアン!」
「分かってる。分かってるから。アンリエッタだって、ちゃんと分かっているから大丈夫さ」

 そう言いながら夫は義母に微笑む。
 そうやっていつものように何も言わず圧力だけかけるってことね。

 分かってなくたって、分かれよということなのでしょう。

 夫といい義母といい。
 この人たちはいつだって自分たちに使うお金で手一杯で、私を気にすることなどない。

 分かってはいたことだけど。
 でも私が死ぬかもしれないと分かっていても、これなのね。

 この三年間は本当になんだったのかしら。
 白い結婚とはいえ、私は私なりにずっと頑張ってきたというのに。
 それも全部、彼らにとっては勝手に私がやったことだとでも思っているんでしょうね。

 実家を頼れ、か。

 それに私をここへ嫁がせるためにたくさんのお金を使った父が、今更私にお金などかけてくれるかしら。

「わかりました……」

 分かりたくなくとも、もうそれ以上の答えなどない。

「それこそしばらく実家でゆっくり療養(りょうよう)するといい。その方がよすぐよくなるだろう」

 どこまでも笑顔の夫に怒りを覚えても、私は結局何も言うことは出来なかった。

「……はい。そうさせていただきます」

 体のいい追い出しってことね。
 夫の顔には、もう戻って来なくてもいいと書いてあるようだった。

 だけど他に手がない以上、父を頼るしかない。

 私は深々と頭を下げ屋敷を後にすると、病で気だるい体を引きずるように、実家へと向かった。