「もし産めなければどうするつもりなのです? だいたい、結婚のみでは貴族籍は私にしか手に入らないのですよ」
「そこはちゃんと考えてある。一旦この商会をお前の名義として、息子が産まれた時に名義をそれに移せば良いんだ。だから、必ず何をしても産むんだぞ」

 息子をここの跡継ぎにして、自分は結局実行支配するつもりなのね。
 子どもだから、あくまでお飾りということなのでしょう。

「……」
「何を危惧しているか知らんが、これで何も問題なかろう」

 父はそう言いながら、ニタリと笑った。

 問題なかろう?
 それはあなたにとっては、でしょうと、私は心の中で悪態をつく。

 前回、私は夫の子を産むことはなかった。
 ううん、それ以前に夫とそういう関係にすらなるこることはなかった。
 私たちは三年もの間、白い結婚だったから。

 でも今思えば、父は全て知っていたのかしら。
 夫たちに問題があることを。

「私のお相手となる方は、どのような方なのですか?」
「まぁ、少し難はあるが大丈夫だろう。どうせ没落寸前で、うちの金がなければ生きていけないような奴らだ。お前が気にすることはない」
「……そうなのですね」

 難があっても気にすることはない? まぁそうでしょうね。
 気にしたって、嫌がって泣きわめいたって、もうこれは父の中で決定事項なのだから。

 ただそう言うということは、やはり知っていたのね。
 あの人が私を愛することはないということを。

 本当に最低な人ね。
 同じ血が流れているなんて、思いたくもない。

 だけど今は大人しく従いましょう。
 あなたの手を離れたあと、しっかりと全部やり返してあげるから。

「まぁ。ゆくゆくは男爵家も手に入るだろう。ああ、本当に今日はなんていい日なんだ」

 そう言って、またガハハハッと豪快に笑い出した。
 父にとっての最良の日は、いつか最悪の日になるまで。
 私はただ冷めた目で、父を見つめていた。