「どうだ、嬉しいだろうアンリエッタ。しかも相手は他ならぬ貴族だ! こんなにいい話はない。没落寸前(ぼつらくすんぜん)の男爵家が、持参金(じさんきん)欲しさにお前を貴族籍に入れるというのだ」
「没落貴族……」

「そうだぞ。うちに足りなかった貴族という地位がお前の結婚によって手に入る。これでうちの商会はますます発展するだろう」
「……」
「全ては俺の言う通りにしておけば上手くいく。いつだってそうだっただろう!」

 別に私の婚期を考えていたワケじゃない。
 売れ残らないぐらいのギリギリさで、でも一番効率良く私を使いたかっただけ。

 父にとったら、私はこの世で一番に使えて価値のある《《モノ》》だから。
 しかも私と引き換えに、父が欲しかったものが手に入る。

「向こうの男爵家も、お前が子どもさえ産めば、平民だと文句を付けることもないだろう。そして男の子を二人産んで、一人を商会の跡継ぎとすれば我が家も安泰だ。ああ、良かった、良かった」
「しかしそれは産めれば、の話ですよね?」

「簡単だろう。ただお前は産むだけでいいんだから。ああ、だが女はダメだぞ。そんなものには大して使い道はないからな。男を産まないとな! ちゃんと二人産むんだぞ」
「……」
「ああ、なんていい日なのだろうな」 

 終始自分で自己完結をし、更には良かったと締めくくる。
 まったく、なんと表現したらいいのだろう。
 この胸にずしりと、鉛のようなモノを置かれたこの感じを。

 母は難産の末、私を産んだ。
 しかしそのせいで、もう母は子どもを産めない体に。

 役立たずな私という女を産み、しかも二度と産めない体になるなんて。
 そんな風に父と祖母から責め立てられ、母は私が幼い時に亡くなってしまった。
 その上でなお、貴族籍が欲しいために私に結婚を強要する。

 使えない私を上手く使ってやったと思っているのでしょうね。

 ただの平民の商人と貴族の商人とでは、出来る仕事の幅も違えば客も違うのは分かる。
 商人のくせになんて、言われることも確かになくなるだろう。

 でもそうだとしても……。