「アンリエッタ様は、こちらにいらっしゃいますか?」

 若く色白い男性の使用人が、きょろきょろと作業場に入ってくる。

「あー、ここにいますよ。どうしましたか?」

 私の代わりにミーアが答えると、男性使用人はそそくさとこちらにやって来る。

「あの、商会長様が急ぎでアンリエッタ様をお呼びするようにと。執務室まで早急に来てくださいとのことです」
「早急に、ねぇ……」

 いつもだったら、走ってでも私は行っていたわよね。
 だって父の命令は絶対だから。
 だから少しづつでも変えていかなくちゃ。

「でも私、まだ仕事途中なのよ?」
「えええ。そんなこと言わないでくださいよ。ボクが商会長様に怒られてしまいます」
「アンリエッタお嬢様、どうしちゃったんですか? 走ってでも行かないと、お嬢様も商会長に怒られちゃいますよ」

 目を丸くする二人を見ていると、少し面白くなってくる。

 まぁ、でもそうでしょうね。今までを考えたら、そうしてきたのだから。

 でも今は違う。
 あの人が全てではないって知ってしまったのよ。