どういうこと?
 何が起きたっていうの?

 バラ病を知らないなんて。

 ミーアはそう、私よりも先にあの病に感染し、その命を落とした。
 私がかかるよりも一年以上も前だっけ。

 気づいた時にはもう遅く、どうすることもできなくなっていた。
 
 だから痛みに苦しむミーアを、ただ泣きながら私は看取った。

 そんなミーアが目の前で生きている。
 これが天国じゃなくって、なんだと言うの。

現実逃避(げんじつとうひ)したい気持ちはよーぉく分かりますよ? ですが、残念。この世に天国などないのです。あるのはいつもの日常という現実だけですよ、アンリエッタお嬢様」

 ミーアはいつものように、片目でウインクしながらおどけて言った。
 生きてた時と寸分変わらぬ姿に、その言い方。

 何から何まで、過去の話でも見ているみたい。
 
 過去?
 私はふと自分の中に浮かんだ言葉が引っかかり、辺りを見回す。

 それは今まで何度も見てきた、商会の作業場だった。