「心配かけてごめんね。でも、もう大丈夫。まだしばらくクリニックには通うだろうけれど、新しい町で、人生やり直すって決めたから」

「そうね。大好きな清海さんとね!」

からかうように言われ、頬が熱くなる。


予め、髭は剃ってきていたとはいえ、どことなくスッキリした顔の清海さんと、車に乗り込んで実家をあとにする。

「清海さん、緊張したでしょう?お疲れ様!ありがとう」

「いえいえ。まあ、こんなに緊張する場面って、そうそうないもんなぁ」

帰り道は、すっかりリラックスしていて、家に着いてからも、いつもと何ら変わらなかった。


いつも通り、私が夕飯の支度でもしようと思った矢先、

「海香子ちゃん、ちょっとこっちに来て」

呼ばれて清海さんのほうに向かうと、ソファで膝の上に乗せられた。

「どうしたの?」

私の左手をとると、清海さんは、ダイヤが華やかに輝く指環を、そっと滑らせてきた。