いま思えば、言わなくてもいいことなのに、

「誤解しないでね!?私たち、おかしなことなんて一切ないから!」

電話で、つい母にそんな余計なことを言ったことも、今は恥ずかしい⋯⋯。

「高丘さん」

母が口を開く。

「海香子は繊細なところがあって、今でもメンタルクリニックに通っていることはご存知だったかしら?」

「はい。だからこそ、うちで静養やリハビリも兼ねて、アシスタントをお願いしたんです。それがまさか、お嬢さんをくださいと懇願しに来るなんて、公私混同も甚だしいと思われるかもしれませんが⋯⋯」

清海さんは、変わらず緊張した面持ちのまま告げる。

「それは構わないんですよ。前にもお話した通り、いつかは、こんな日が来るとは思っていたから⋯⋯ねえ、お父さん?」

「そうだな。初めてあなたを見たとき、きっと海香子は、遅かれ早かれ惚れてしまうんじゃないかと思ってましたからねぇ⋯⋯」