「一人で暮らすには、勿体ないほどの広さね⋯⋯」

「もし、広くて淋しいと感じたら、いつでも声かけて」

「え?だって、絵を描いているところを邪魔するわけには⋯⋯」

「大丈夫だよ。本当に、絶対に声をかけられると困る時は、プレートを下げておくから」

有難いことに、必要な家具家電は、もう設置してくれている。

しかも、寮費無料。

これほど好待遇の仕事なんて、そうそうないだろう。

荷解きを済ませると、私は1階の清海さんを訪ねた。

「あの⋯⋯私に出来ることないかしら?」

「来たばっかりなんだから、ゆっくりしてなよ。あ、そうだ。これ渡すの忘れてた。いちいち外に出てから、こっちに来るのも大変だろうから」

渡されたのは、内線電話だった。

「ありがとう。でも、下手にこれを鳴らすと、創作の邪魔にならない?」

「あはは、本当に気を遣うね。大丈夫。本当に完全集中する時は、電話の音も切ってるから」