出来が良くないからこそ、人の3倍、5倍頑張らなければいけない⋯⋯いつもそう思ってきた。

それなのに、あれほど憧れた都会での暮らしに、呆気なく負けてしまうなんて、悲しくて、悔しくて⋯⋯。

今は、親に甘えて家業の床屋を手伝っているが、

「あれ?海香子ちゃん、東京から戻ってきたの?」

地元の人たちの、悪意も他意もないその言葉が、私の胸を抉る。

だから、新たに仕事をするのなら、地元からは離れたいのだ。

清海さんの新天地というのは、ここより少し北と言っていたから、恐らく山形県内の、海岸沿いの小さな町だろう。

私は、幼い頃からここで暮らしてきたが、海辺の家は、やはりいいものだ。

自転車がサビだらけになるなど、現実的にはいいことばかりとは言えなくても、今度引っ越すとしたら、ここと似た町へ行きたいとも思う。

となれば、やはりこの話は、渡りに船ではないだろうか。

私はようやく決心した。