先入観を与えず、ちゃんと絵画のみで勝負したいということで、今は完全に覆面画家としてやっているらしい。

「確かに、清海さんが顔出ししちゃうと⋯⋯ルックスのよさに気を取られる人も多いかもしれない」

そう言うと、清海さんは苦笑いで、

「自分ではイマイチわからないけど、僕の顔がいいっていう物好きな人も、世の中には居るからね」

物好きも何も、実際に清海さんは、端正な顔立ちでスタイルもいい。

「でも、私に顔がバレちゃって良かったんですか?」

「いいんだ。本当の目的があるからね」

一体、何だろう?

「海香子ちゃん、地元を離れて社会復帰したいって言ってたじゃない?」

「ええ」

「僕ね、生活の本拠も住民票も、ここからもう少し北上した海辺の町に移そうかと思ってるんだ。何も、東京で部屋を借りなくても、必要に応じて飛行機で往復したらいいし」

「うん⋯⋯?」

何の話だろう。