「…ねえ凌久君。私からもお願い」
「ん?」
彼女の温かさを全身に感じながら、腕の中の彼女が見える様に少しだけ身体を離した。
「これは預かって置くでもいい?」
「…嫌やったか?」
首を傾げて聞けば、
「嫌とかじゃなくって!いつか凌久君がまた手に戻したい、付けてみたいって思った時にあげた手前返してって言うのって言い辛いでしょう。だから!」
「…そんな日来るかなあ」
「来るかもしれない!」
彼女が力説するものだから「はいはい分かった分かった。ほな預かって置いて」と適当に返す。
そう言いながら何処かホッとしている自分も居て、やっぱり彼女は凄いなと改めて思った。
「責任持って預かります!」
腕の中の彼女はビシッと敬礼していて、ぶふっと可愛くて吹き出す。
「何で笑うの?」
「可愛いくて…っ」
「笑ってんじゃん!」
「本当本当大真面目」
嘘臭い!と前面に押し出した彼女の苦い顔にまた笑ってしまう。
さっきの重さは何処へやら。
こんな温かさに包まれると思っても見なかったこの日を、俺は一生忘れないだろう。
そして同時に覚悟した。
土師でどんな扱いを受けようが、土師凌久として彼女を守ると。
気持ちを新たに。
そう思っていたーーーが。
誓い立て早々。
覚悟を試す様な事が迫っている事に、気付く事が出来なかった。



