「ーーー何でだ。これから結婚したら僕にだって子供が出来るかもしれないだろう。大丈夫だ。僕がお前の子を愛せるなら、お前だって愛せる」
大分無難な事を言って返したが、腕の中の匡獅が震えた。
泣いている?
いやーーー。
「ははっ…」
「匡獅?」
「ふハハハハハハ!」
笑っている?
狂った様に笑う腕の中の匡獅に困惑していれば、
「ハハハッ…富士恵さんの言った通りだ」
姿を消した女の名前を呟いたので更に驚く。
「…何を言って、」
「“何れは八重は貴方の傍を離れる。結婚するとか言って。でも安心して八重はーー”だって」
続いた言葉に時間が止まった気がした。
僕から出て来た言葉は、
「いつ、からだ」
聞いても意味の無い言葉だった。
匡獅は今まで隠して来た秘密を漸く話せた晴れやかな笑みを浮かべながら、その実弱り切った獲物をどう痛ぶるか考えている様な悪辣さを滲ませていた。
匡獅の悪い癖だ。
自分が言った事に右往左往する人達を嘲笑う、酷い癖。
嗜めるのは僕の役目だ。
役目だったんだ。
皆んなはオオミカの不況を嫌って言わない。
こう言う時、嫌われ者に全てを押し付ける。
ああ兄さんに会いたい。
文啓さんか、もう1人の兄か、アイツか、ああ誰でもいい。
誰か。
「八重」
「…っ」
「どうしたんだ」
立ち上がった匡獅に強く抱かれて、後ろに下がれなくなった。
無意識に逃げ様とした僕は易々と捕まった。



