「渚君」
嗜める様な唐堂綴に肩を竦めて下がった男の傍から彼女が出て来て、俺の目の前まで来る。
すると、イヤリングの上にそっと手を重ねた。
「ーーー付けられるといいね」
いつか、と付け加えた彼女の見上げた顔。
俺の葛藤や不安を包む様な笑顔に何故だか泣きたくなるぐらい安心した。
「あ、ごめん。触り過ぎた」
大事なモノである事を思い出して直ぐに手を離した唐堂綴は、
「じゃあまたね凌久君。生徒会室で。すみませんお騒がせしました〜」
周囲にペコペコしながら俺らを置いて行く。
「ま、」
「おいエセ丸眼鏡」
またお前か…正直ウザったいと思い始めた男が、彼女と俺の間に入り込む。
「言うとくけど俺もこれから生徒会手伝う事になったしな。自分だけがつづちゃんの特別ちゃうしな!」
「…あんた何なんやねん」
「ただのつづちゃんめっちゃ好きな男や!待って〜つづちゃん俺も一緒に行く〜」
「…」
男の後ろ姿を見送りながら、何も言えない俺の為に彼女が取り返してくれたイヤリングをそっと握る。
「ご、ごめん凌久!私…!」
「凌久に触んないでよ!本当最低」
「盗むとかきちーな」
「!違う!本当に好きだから凌久の事!お願い凌久許して…!」
「凌久?」
近くで言い争う男女の声が右から左に流れて行く。
そうか、俺まだ捨てなくていいんだ。



