威圧感に誰かの喉がヒュッと鳴り、賑わう廊下は静まり帰った。

 アレだ、これはオオミカと会った時に似ている。


「折角つづちゃんがアンタの為に逃げ道作ったったのに…」

「っ…!」

 
 女を睨め付ける様に渚と呼ばれた男は女を見下ろす。

 誰もが口出し出来ない雰囲気に、沈黙がいつ迄も支配するかの様に感じた。

 その時、


「渚君ごめんね私の為に怒ってくれて…でも怖い顔より笑っている顔の方が好きだから。ありがとう」


 唐堂綴が男の肩をポンポンと叩く。

 ヤクザの様に恐ろし気な男の表情が和らぎ、


「つづちゃんには敵えへんな」


 唐堂綴に微笑んだ。

 けれど、


「おいそこのエセ関西弁丸眼鏡」


 急に俺に白羽の矢が立った。


「エセなの?」

「俺がエセって言うたからエセ!…つづちゃんちょい貸して」

「さっきの?」


 エセじゃないけれど。

 コイツにまたあの気迫を出されたら面倒なので、2人のやり取りを黙って見守っていれば、唐堂綴がポケットに入れたイヤリングを取り出して、渚と呼ばれた男に手渡す。

 するとそのまま俺に、


「っあぶな」

「おー受け取ったな」


 投げ渡した。

 気が重くなる様なイヤリングが俺の手に戻る。


「やりたないならそう言うたらええやろ」

「…」


 お前は簡単に言うけれど、俺はこのイヤリングを捨てたいかどうかすら分からないのに。