笑顔を作れ。
別の女にも触られた時も上手く流せただろう。
いつもの軽薄な、自分に。
何故取り繕う事が出来ない。
「…」
「…」
な、ぜ。
その瞬間ーーードンッ!と、
「あ、今のやっぱりなしで」
机を両手で大きく叩いて、立ち上がる唐堂綴。
「あ、もうこんな時間」
唐堂綴は立ち上がって、壁に掛けられた時計を見てそう呟く。
そして、
「帰ろ」
手を差し出された。
『おいで、凌久』
いやいや。
「話いいの、」
「凌久君も寮生でしょう?」
言葉を遮られた。
話いいのか。
そう言いたかったのに。
何で唐堂綴が引いたのか分からなかったが、
「…うん」
有り難くその手を握った。
ああそうかなるほど。
俺は分かっていて唐堂綴の地雷を踏んだのに。
「ーーー最高にダサいな、俺」
「うん?」
振り返って首を傾げられる。
「何でもない」
曖昧に笑って流すぐらいしか出来ず、小さな子供が手を握り合うかの様に引っ張られる。
この時から予感していたんだろう。
無意識の予感が期待していたんだ。
「凌久君ほら帰ろう」
彼女に。
ただ他人を傷つけ様とした報いが、
「ない…」
早々に来た。
ポケットの、イヤリングが無くなった。
あの話以降何故だか唐堂綴の俺への態度が軟化した。俺の態度に何かを悟って同情したか、それとも…。
傷付けた手前彼女には聞けずにいた。
謝ったらきっと許してくれるだろうけれど、それも出来ない。



