過つは彼の性、許すは我の心 参



 笑顔を作れ。

 別の女にも触られた時も上手く流せただろう。

 いつもの軽薄な、自分に。

 何故取り繕う事が出来ない。


「…」

「…」


 な、ぜ。

 その瞬間ーーードンッ!と、


「あ、今のやっぱりなしで」


 机を両手で大きく叩いて、立ち上がる唐堂綴。


「あ、もうこんな時間」


 唐堂綴は立ち上がって、壁に掛けられた時計を見てそう呟く。

 そして、


「帰ろ」


 手を差し出された。


『おいで、凌久』


 いやいや。


「話いいの、」

「凌久君も寮生でしょう?」


 言葉を遮られた。

 話いいのか。

 そう言いたかったのに。

 何で唐堂綴が引いたのか分からなかったが、


「…うん」


 有り難くその手を握った。

 ああそうかなるほど。

 俺は分かっていて唐堂綴の地雷を踏んだのに。


「ーーー最高にダサいな、俺」

「うん?」


 振り返って首を傾げられる。


「何でもない」


 曖昧に笑って流すぐらいしか出来ず、小さな子供が手を握り合うかの様に引っ張られる。

 この時から予感していたんだろう。

 無意識の予感が期待していたんだ。


「凌久君ほら帰ろう」


 彼女に。

 ただ他人を傷つけ様とした報いが、


「ない…」


 早々に来た。

 ポケットの、イヤリングが無くなった。

 あの話以降何故だか唐堂綴の俺への態度が軟化した。俺の態度に何かを悟って同情したか、それとも…。

 傷付けた手前彼女には聞けずにいた。

 謝ったらきっと許してくれるだろうけれど、それも出来ない。