緩慢に死に至っている様な感覚が自分を支配し続けている、とでも言うべきか。

 叔母の存在が無ければ自分はとっくに死んでいると思う。

 ある日女に、


『凌久って生活感無いよね。自分の物殆どないじゃん』


 そう言われて自分にも興味が無い事に気付いた。

 言われてみれば自分の物は無かった。

 大体身の回りは女受けが良い物で揃えていて、確かに自分には自分の物と言う物はないのかと自嘲した。

 そう考えると女受けとか考えずに自分の物として持っているのは、母がくれたあのイヤリングだけ。

 皮肉だ。

 母の呪いが自分の唯一の物とは。

 見るだけでも母の狂気と悔恨に自我が崩壊した姿を思い出す。

 なら、捨ててしまえばいい。

 見るだけでも辛くなるなら捨ててしまえば、

 
『ごめんね凌久ごめんね…!』


ーーーーああやはりこれは呪いだ。

 決して消えない、鉤爪の跡。

 それを後生大事にする自分を嘲笑い生きていたあの頃。


「ねえ凌久こっちこっち」

「何?」

「此処今なら誰も来ないから…ね?」

「…悪い子やん」

「ふふ」


 女が机に乗り、俺の襟首を持って引き寄せる。

 今は誰も生徒会室に居ない。

 スリルを求める女に促されるまま、女の首に顔を寄せる。

 その時に出会ったのだ。


「ーー失礼しまーす。戻りました」

 
 ドアを思いっきり開けて、入って来た彼女ーーー。


「駄目だよ唐堂君!」

「何?」


 唐堂綴と出会ったのは。