『それもそうね』
『ふふ…』
命以外のモノ全てを捨てさせた自分はお荷物だから、自分も同じ様に命以外を捨てなければ。
なのに。
「ねえ凌久これ何?」
女の手の中でキラキラと輝くそれは、俺が捨てきれないたった1つのモノ。
白いポインセチアのイヤリングは母親が俺に唯一残した呪いの様なアクセサリー。
裸の女が見せる様に上に掲げる。
自分が寝ている時にどうやら服をあさったらしい。
手癖が悪いなと心の中で思ったが、そうは言わずに「…さあな忘れた」と言ったら「何それさいてー」と女は唇を尖らせる。
笑って女の手首を握りながら、女の上に伸し掛かる。
「そのさいてーな男を好きなんはあんたやろ」
「ふふ…!やだもうっ…!」
首元に唇を押し付けると、女もその気になって嬌声が漏れ出す。
手からイヤリングが落ちたのを横目に確認しながら、不自然に見えない様にベッドの下にある自分の服の上に落とした。
女が行為に夢中になり、背中に手が回る。
行為が進む中でも、頭の中はイヤリングの事だけ。
嗤える。
自動的に行為を出来てしまう自分にも、気持ちの篭らないこの行為に感じいる女にも、呪いを残した母親にも。
全てが嗤えて来てーーー見えない何かが自分を蝕んでいる様な気がしていた。
月日と共に雪の様に何がか心の中に蓄積して、それが汚泥の様に決して洗えなくなっている。



