「相手は?」
「…お前の知らない奴」
本当はいない。
でも潮時だった。
僕が匡獅の傍に居る事が今まで可笑しかったんだ。
「知らない奴か…相手が家に戻れと?」
「元々家に戻れと再三言われていた。けど、お前のシンカンになった事で予定が狂って別の人が僕の代わりをしていてくれたんだ。その人ももう身体が弱っていつまでも代わりを務められる状況じゃない」
「…ふうん」
不気味だ。
僕は匡獅が激昂すると思っていた。
実際家の人間が僕を連れ戻しに来た時は殺さんばかりの勢いだったから、少し身構えていたのに拍子抜けだった。けれど、コイツも親となって成長したのかと思い直す。
「随分お前には世話になったな」
「…」
寂しい様な気持ちだが、家にあのまま居たら辛い現実しかなかっただろう。
「ありが、」
とう。
そう言い掛けた瞬間、匡獅は立ち上がった。
「匡獅?」
「…」
机の前に来ると、そこに腰掛けて腕を広げた。
「いいだろう?」
…まだまだ子供だったな。
呆れ半分嬉しさ半分で、僕は匡獅の前まで歩き、その頭を抱き締めた。
「変わらないな」
匡獅の両親が亡くなった日から、1人で傘も差さずに座り込んでいたコイツを見てから始まった時々するこの行為。僕がこうすると、匡獅はよく落ち着くと話していた。



