彼女は続けて、


「ただ住み込みでって話だから、退寮する事にもなるし、それこそ親にも話す事にもなるしって悩んだんだけど…」


 困った様に眉根を寄せた。

ーーー彼女の家庭はごくありふれた家庭だ。

 自分の娘が、悪目立ちしている集団と関わったばかりに怪我を負い、彼女の祖父は天條を(と言うより父の事を)嫌っているで、本来なら関わらせたくはないだろう。


「リタの事ととか、カズミさんとの約束もあるしで、家族には死ぬ程心配されたけど、結局許して貰ったんだ。まあお母さんと弟に定期的に会うって事が条件だけど」


 心配ばっか掛けてとんでもない親不孝者だよね私。

 あははと苦笑いする彼女。

 心配はあっても関わらせるのは、彼女がそう望んだから。

 親…。


『苦しくて堪らない…私は世界で1番幸せな筈なのに』

『どうして!どうして私は選ばれたの!?答えて八重さん!』

『私にはもう何もない…』


 笑っている顔なんて…殆ど覚えていない。

 幼い時より母親との面会も限られていた上に笑ってはいても、心からの笑みではなかったのは子供ながらに分かった。

 あの人の状況を考えるとそうならざる得なかったのだろうけれど、だからこそ俺は。


「と言う事で、次の月から本格的に住み込むと思うんでよろしくお願い致します」