過つは彼の性、許すは我の心 参

 

 彼女の手を取る。

 油断し切った顔。


「人前じゃなければいいのか?」

「っ…そう言うのをやめっ」


 ぽすんと立っている彼女の身体を抱き締める。


「…甘えたい気分?」

「ああ」


 辿々しくも俺の身体を抱き締めてくれる。

 そう言えば父はよくあの人にこうやって甘えていた。

 あの人もどうしようもないなと言いながら、父を抱き締めるその顔は嬉しそうだった。

 羨ましかった。

 
「リタの事、負担?」

「…そこまで」


 存在自体は不愉快だが、そんな存在は今までも居た。

 強引さはあれど、俺の視線で黙らせられるぐらいだからまだ可愛い方だ。

 ただ後ろに居る存在が厄介。


「…あのね獅帥君」


 そう言って身体を離した彼女は俺を見下ろした。

 黙っている事でもないしと前置きして、


「実はね、私天條家でバイト?みたいのする事になって」


 馴染みの無い言葉に思わず「は?」と言ってしまった。


「も、元々ね!大学生になったらするつもりだったんだけど…」


 彼女が慌てた様に話をする所によると、俺が土師利大達と話をしている間に、姉と妃帥と将来の話をしていたらしく。


「その時にじゃあお試しでって、妃帥ちゃんの身の回りのお世話とかどう?って言われたの。よく考えたら洋直ちゃんも獅帥君の身の回りのお世話って言う名目のバイトしてたんだよね?今回はその手の…えっちなバイトじゃなくって、雇用契約ちゃんと結んだものにするって言う話…みたいなんだけど」