感情的な人間は昔から苦手だった。
相手が泣いたり怒っていても心が動かないし、相手の言う通りにしてもそう言う事じゃないと喚かれる事もあって困る事もあった。感情的になっている時に話し合いをしても意味がないと思ってしまう為に離れようとすれば、激昂される事もあって、ほとほと気持ちが理解出来なかった。
なのに、
「獅帥君どうしたの?」
「…」
今理解出来ない人間の気持ちを思い知らされるとは。
「大丈夫具合悪い?」
彼女が自分を気に掛けてくれる事は単純に嬉しい。なのに、
あの女が、
『獅帥さん、あの女の事好きなんですか?可哀想…』
余計な事を言いながら俺に纏わりつき、口角を上げて嗤ったあの女ーーー土師利大。
先日彼女が妃帥の為に文化祭時の格好を見せに来たその日、あの女と。
『やあやあ獅帥様。お久しぶりですなあ』
『…久しいな』
土師保宇が現れた。
仕事部屋に現れた男は鷹揚な態度で俺と接する。
昔からこの男は好かなかった。
値踏みする様な視線と、俺らの周囲を嗅ぎ回る言動。
父の母…祖母の時からストーカーの様に現れていたらしい。
『この度は愛娘の利大をシンカンとして迎えてくれた事、本当に感謝して、』
愛娘。
鼻で嗤いそうになったが『感謝する言われはない。妃帥のミケの頼みだから聞いたまでだ』と言って誤魔化した。
『ああ、あの…』
男は肉厚のある顎を撫でる。



