でも今の匡獅は他の女と違って入れ込んでいる様にも見えるから、ミケである彼女もあんなに取り乱したのだ。

 忠告のつもりでそう言ったが、


『俺はお前にだけは言われたくなかったよ』


 思わぬ言葉で返されて動揺する。


『匡獅…』

『分かっているさ、今時跡継ぎ云々と馬鹿にされる様な事も、俺達の場合は事情が違う。跡継ぎは必要だ』

『…』

『何よりお前からの頼みは俺は無碍に出来ない。言う事は聞いてやるよ。でもその代わり…』


 その後、搔き回すだけ掻き回した富士恵は、


『居なくなるのか』

『ええそう。充分愉しんだし、それに目的は果たせたし』

『ーーーまさか、』


 嫌な予感を僕に与えて、


『どうしたの怖い顔』

『…』

『じゃあね八重』


 何年も前に姿を消した。

 結婚して念願叶ったミケである彼女は、膨らんだお腹を撫でている。幸せに包まれているその光景は、慈愛に満ちている反面、何処か鬱々としていた。


『ねえ八重さん。この子達八重さんとの子だと思われているのよ』

『…』

『双子なのに…それも今回は男女。私は役目を果たしているのに…』

『…』

『いっそそうだったらいいのにね』

『それは、』

『ごめんなさい八重さん。おかしな事を言って』


 謝らないで欲しかった。

 だって悪いのは…。


『八重さん』

『獅帥、妃帥』


 小さく柔らかな手が僕に縋る。

 可愛くて堪らなかった。