グッと何かを飲み込む様な音が聞こえたと思ったら、猛ダッシュする靴音が聞こえた。
去った…のか?
見えないけれど人の気配が無くなったのが分かり、胸を撫で下ろしていると身体に掛かる重みが消えた。
「カズミさん?」
何も言わずに私の上から退いたカズミさんは、近くに合ったオープンな手洗い場に向かって、蛇口を捻る。
そして聞こえる水の流れる音と共にーーー…オエエエと。
「カズミさん!?」
バッと起き上がって慌てて駆け寄れば、大量の水と共に吐瀉物が排水口に流れている。
「カズミさん大丈夫!?」
これ以上出ないのにまだえずく動作を止めない為、背中を撫でてみるが一向に止まる気配がない。
「誰か呼んで、」
そう言って離れようとした。
パシッと手を掴まれる。
「いい。此処に居ろ。まだ外に居るかもしれねぇから」
弱々しい姿なのに、その眼差しは強く動きを止められる。
そう言ってウッとし始めたカズミさんは、蛇口から出ている水を只管口に入れて出すを繰り返した。
暫く見守っていれば「はあー…」と息を吐くカズミさん。
私から手を離したカズミさんは私を押し倒したベンチにドカリと座って一言。
「聞きたい事は?」
と、上を見上げながら言った。
何時もなら緩む隙の無いネクタイは緩んでおり、上までキッチリ閉めていたボタンは二、三個開けていて、何だか色気が凄い。



