「どりゃあ!」


 オラァ!手を離せ!と距離を取ろうとしたら、


「ぎゃ」


 変な風に回転したせいで足首に痛みが走り、バランスを崩す。

 すかさず、


「危ない」


 獅帥君に抱き留められ、甘い匂いに心地良くなるのと思い出した淫蕩な時間に離せ!と藻掻くが更に抱き込まれる。


「圭三郎に診て貰った方がいいな」

「いいよ!そんな事しなくって!ってひゃあ!」


 しかもまたお姫様抱っこされた。

 前と同じ状況で居た堪れないです私…!


「…ふふ、お兄様。綴のそれの治し方はよく分かっているわよ」

「どうすればいい?」

「お兄様が長くお傍に入れば治るわよ」

「妃帥ちゃん!」

「慣れれば羞恥心なんて消えるわ…それに仕事でお疲れでしょうお兄様も。少し寝て来たら?」

「…そうだな」


 こんな顔慣れてたまるか!

 お、降ろせー!とわーぽかぽかと獅帥君の背中を叩いていると、私の耳元に顔近づけて。


「妃帥の前で思い出すなんて、そんなに良かったのか?」


 艶やかで、身体に響く様な低い声。


『怖がるな、俺だけ見てろ』


 あの日を彷彿とさせる夜の声が私を揶揄う。


「〜っ!馬鹿!」


 そりゃあ獅帥君は慣れているかもしんないけどさ!


「いってらっしゃい綴」

「妃帥ちゃ〜ん!」


 おほほと口元を覆う妃帥ちゃんは、もう片方の手で私に手を振る。

 扉がパタリと閉じる。