ここには元より居場所等無かった。
他のシンカンにも嫌われ、分家筋には疎まれていたから、今までが可笑しかったんだろう。
自分がここにいれるのはたった1人の我儘だったのだから、それの許可さえ貰えれば自分は此処を立ち去れる。
ただ、そのたった1人にこれから言いに行かなきゃならないのが気が重いのだ。
何度か自分達を離れさせようとする動きもあったが、その度に強硬な反対にあったのだから。
口に出して反対した者達は、軒並み不幸になっていた。
たった1人の言葉で。
「匡獅」
「八重」
匡獅はパソコンでの作業を中断し、グッと伸びをする。
「はあー…」
「これに懲りたら程々にしろよ…」
「そうだな」
ハハハと隈が出来た微笑みにちらりと可哀想かと思ったが、火遊びに勤しんでいたせいで、仕事が溜まっているのだから自業自得ではある。
「反省してないだろう」
「何だ、分かったか」
「馬鹿…」
やれやれと頭を振れば、匡獅は子供の様に嬉しそうに笑われて、言い出しづらくなる。
「ーーーそうだ八重」
「うん?」
「富士恵さんはどうしてるんだ」
言葉に詰まる。
富士恵は、
『…そんな顔しないで、姉さん悲しいわ』
不快で堪らない。
何の苦しみも感じずに匡獅の腕にしなだれてニッコリと笑うあの女。



