何があったの、ナオ。
無言で歩くナオの背を見ながらそう問い掛けたいが、ナオの放つ空気がそれを拒絶する。
着いた居間も足の踏み場もない場所で廊下とさして変わらなかったが、座布団だけは綺麗にポツリと置かれていた。
「そこ座れよ」
子供の頃のナオは手に泥が付いただけでも直ぐに手を洗いたがって、円嘉に更に泥付けられて発狂してたぐらいなのに。
「よいしょっと」
「…」
今じゃナオが座った場所の近くにあったゴミ袋から漏れ出る謎の汁が、座った拍子に手に付いても何も言わない。
「うん…ありがとう」
一応と言った程で目の前の机上にお茶が出されても飲む気がしなかった。
「…」
「…」
湯呑みから湯気立つお茶を眺めながら、ナオから切り出すのを待つ。
此方から色々聞きたい事があるけれど、出方を伺った方が良い気がした。
もしかして私がやらかしてて怒らせている気もするし、この状況で良い話だとは流石に思っていない。
それに今のナオにジッと見られているだけで、酷く頭が痛くなってくる。
…また薬飲まないとな。
「…この間の奴来ているのか?」
そう問われて、首を傾げる。
「この間の奴?」
「ほらじーさん達が大騒ぎして、同窓会に来たって言う」
「獅帥君の事?」
「家に居るんだろう」
頷けばナオは「そうか…」と言いながら俯いた。



