どうしていいか分からない。
途端に意識をして、心臓がドクドクと鳴る。
目を逸らしていた事が目の前に無理矢理ぶら下げられている。
視線を逸らす事も許さない男は、その熟れた柘榴の様な唇を開いた。
「何故行く」
「何故って、呼ばれたから」
「そうやってほいほい呼ばれたら行くのか」
「ほいほいって…」
悪意があると言うより棘のある様な言い方。
今度はこっちが顰める番だ。
待ってもしかしてさっきの2人デートの件と繋がっているの?
「…さっきの件は私が浅慮だったよ。でも小さな頃からナオとは家を行き来するぐらい仲良かったし、それに昔からの事だから近所とか地元の友達もよく知っているから今更だよ」
例えナオと私が付き合っているなんて噂が立ってとして、こんな田舎町の噂が影響を与えるとも思えなかった。
「好きだったんだろうその男が」
「好きって言うか…妃帥ちゃんからなんて聞いたか分からないけど、子供の頃の幼稚な初恋で」
「妃帥じゃない。報告書で呼んだ」
「報告書?」
「…お節介は沢山いる」
お節介。
言葉から察するに恐らく誰かしらが、獅帥君にお節介を働いて、私に対しての調査とやらをしてその報告書を読んだとかそう言う…。
「…それこそ聞いてくれたら獅帥君には話してたよ」
勝手に調べられているのも、勝手に知られているのも不快だった。



