獅帥君の横を通り過ぎて、
「じゃ!少しの間よろしく!」
手を掲げる。
ナオの家に寄る前に近所の人に言っておこう。
ピンポン鳴らして獅帥君出て来たら、近所の人の魂が抜けてしま「あいた!」と。
額に痛覚が宿り目の前にはなんとドアが!じゃなくって、私の真横から腕が伸びてしっかりドアノブを内に引いていた。
成程ドアを閉められて気付かずに真っ直ぐ私が突っ込んだと言う訳だ。
じゃあ一体誰が。
「ーーーナオ?」
素敵な美声が私の耳に届いた。
誰って獅帥君しか居ないんだけれど。
振り向けば表情が読めない獅帥君が私を見下ろしていた。
醸し出す獅帥君の得体の知れない雰囲気に鳥肌が立ったが、口だけはどうにか動かした。
「う、うん…ほらナオ。幼馴染の」
「…」
沈黙が怖い。
そして柳眉を寄せ始めているのを見るに、あまり機嫌は良くないのは分かる。
後退をしたい。気持ち的には。
でも既にドアノブから手を離した目の前の長い腕の持ち主が、ドアに手を付いていて開けない状況にされている。背水の陣となって男を見上げる羽目に。
男、あ。となった。
片方の手が私の頬に添えられて、親指で私の唇を撫でられた。
背筋が泡立つ、恐怖じゃ無くて色気によって。
何だかスコーンと忘れていたが、この人と寝た事があって、この家には私とこの男以外はいない事を思い出す。



