「… 逆恨みするしか出来ひんアンタには理解出来ひんやろ」


 憐れむ様な土師凌久の視線を切る様に「ハッ…だったら凌久さんがあの女を幸せにしてあげればいいんじゃないんですか?」と言った。

 女は土師凌久を怒らせ様としたのだろうけれど、誰よりもこの場で土師凌久は冷静だった。


「こう言うた方がええか?アンタには一生姉の気持ちは分からんやろうやで」


 その言葉に土師利大止める者は居なかった。
 
 襟首を掴みーーーパンッと強く叩かれ、土師凌久の眼鏡が飛ぶ。


「アンタに私の何が!」

「っ…どないな場所か知らへんで楽や思て食い付いたこの場所で、どんだけの人間死んでるのか知らへんアンタに何理解出来る?」


 あの男に深くは知らされていないらしい土師利大は「ハア!?」と怒りながら土師凌久の襟首を掴む手を強める。


「なんも見えてへんアンタに今何言うても無駄やな」

「はあ?」


 頬を摩りながら、襟首を掴む土師利大を払い除け立ち上がった土師凌久はーーー俺を見た。

 何故だかその蛇の様な瞳に問われている様な気がして、気持ちは後退したくなる。

 それでも土師凌久は俺に聞けと瞳で語った。


「ーーーお前もよう考えろ。お前が思うがまま動く事で何起こるんか」


 ああ…そうか、何言うても無駄なんは1人だけとちがう、か。