そんな筈無いのに、俺が妃帥を傷つけるなんてそんな事は。
自分に生まれた初めての感情に動揺し、そんな俺を妃帥は観察する様に見つめられ、余計に戸惑った。
その時、
「ーーー俺はつづには幸せになって欲しい」
冷え切った俺と妃帥の間に土師凌久が割って入った。
「なあに凌久?」
言葉自体は攻撃的ではないが、口調には苛立ちが含まれているのが聞いてて分かる。
至高の坩堝に入り掛けていたので、自分としては助かったが…。
土師凌久は携帯から目を離さず、
「兄妹喧嘩に他人を巻き込む奴も、逆恨みで他人を陥れ様とする奴も、何処までも他人事の奴らもどうでもええ」
と言いながら指で画面をなぞっている。
「其処に当たり前がずっとあるなんて思て、ぞんざいに扱う奴らにくれたるぐらいなら、普通の男と幸せになって欲しい」
指先に居るのはきっとーーー…。
「逆恨み?って誰の事ですかあ凌久さん」
土師凌久の指が止まり、問い掛けて来た土師利大に視線をやる。
「分からへんかったか、アンタの事や」
「逆恨みじゃなくって、正当な恨みですよ。それに凌久さんの言っている事が事実ならあの女の事が好きって事ですよね」
「…そうやなあ」
土師凌久は糸目を更に細めて顎を摩る。
女はハッと笑って「何処がいいんだか」と吐き捨てる。



