過つは彼の性、許すは我の心 参



 心中は荒れ狂いながらも、


「今更だけど何で俺ら名字で呼び合ってんだ?」

「それは私が唐堂で、坂本君が坂本君だから」

「何だよその変な理由。普通に名前で良くね」

「えー恥ずかしい」

「中学生かよ」

「へへ」


 坂本君と話が出来るんだから自分は大概冷徹だなと思ってしまった。

 ゼリーを掻き込んで飲み込む。

 美味しかった筈なのに、今は味を良く楽しむ余裕も無い。


「もう時間だな、そろそろお土産コーナー行こうぜ」

「そうだね」


 そんな時間か。

 朝の早い時間から美術展に来ていたのに、もう予定の新幹線の時間になっていた。ゴミ箱に容器を捨ててさあ行こうとした所、


「あの…」


 と声を掛けられた。

 振り向くと会場スタッフらしき人が「唐堂綴様でしょうか」と私を名指した。


「はい…あの何方様で」

「此処の美術展の総責任者です」


 ぶら下げていたネームプレートを私達に見せて自身が怪しい者では無い事を示されたがはてさて。


「責任者の方が私に何か?」

「…お探しになられている方がいまして」

「探す?」


 坂本君と目を見合わせて、お互いに心当たりがあるか確認するがお互い無さそうだったので「あのそれって誰なんですか」と聞いたら、


「ーーー綴」


 耳心地の良い、聞き慣れた低い声に目を瞬かせた。