今日も今日とて、
僕達は例のハンバーガーショップに集う。

「うっま〜い♡」

藤堂椿は期間限定の
いちごを使ったスイーツに夢中である。

「それで……さ、
今度の宿泊学習の
自由行動の日なんだけど……さ」

そう話を切り出してみたのだが、
色んな感情が綯い交ぜになって、
もはや持病となりつつある
不整脈を起こさせる。

「もし良かったら……
一緒にまわりま……せんか?」

死ぬ……。
死んでしまう…⋯。

僕は極度の酸欠に耐えながら、問うた。

「なんで、敬語?」

彼女はスイーツを貪り食らう手を止めて、
きょとんとした表情をする。

「いやっ⋯⋯だからっ!」

僕は頭にかっと血が登った。

察しろよ、この女!
僕がどれだけ勇気を振り絞ったのかをっ!!

僕はそんな言葉を飲み込んで
きゅっと拳を握りしめた。

「えーっ! つうかお前、
クラス違うじゃん」

彼女の言葉に、
僕は蟀谷のあたりに
怒りの血管が浮き出るのを感じた。

だから心配なんだろうがっ!
クラスが違うから、
僕の目の届かないところで、
他の男が君に⋯⋯っていう展開がさぁっ!

できればなるべく早く
僕は君との関係を
公のものにしてしまいたいんですけどっ!!

「クラスが違ったら
一緒に回ってはいけないというルールは無いよ」

僕はなんだか面白くなくて、
少し口を尖らせた。

「それはそうなんだけど、
女子って微妙だぜ?」

彼女が意味深なことを言った。

「それとお前と一緒にまわるってことはさ、
お前との関係を公にするってことだろう?
なんかそういうのって⋯⋯どうなん?」

あっ、やっぱり僕、拒否られている。
そんな気がした。

「どうって?」

今まで舞い上がっていた分だけ、
なんか頭をハンマーで思いっきり殴られたような、
冷水を浴びたような、そんな気分だった。

「なんかお互いがお互いを
見せびらかす道具みたいにしてさ」

彼女が頬杖をついて、
窓の外を見つめた。

「道具って⋯⋯言い方」

そんなつもりは、なかったんだけど⋯⋯。

いや、本当になかったんだろうか?

ふとそんな疑問が脳裏を過った。

「こういうのってさ、
まわりがどうこうじゃなくって、
本人たちがちゃんと思い合っていたら
それで良いんじゃ無いかなって思うんだけど」

僕は彼女の発言の中に、本音が半分と、
僕への拒否が
半混じっていることを微妙に感じ取ってしまった。

「つまり君は、僕との関係を公にしたくないってことを、
ものすごく遠回りに発言してない?」

そう問うと、

「ギクッ!」

彼女は分かりやすくその場で石化した。

◇◇◇

皇に、宿泊学習の自由日に一緒に回らないかと、
誘われた。

俺は思わず貪り食べていた、
スイーツのスプーンを置いた。

う〜ん、どうすっかなぁ〜、これ。

俺は思案に暮れる。

コイツ、皇愁夜と俺、藤堂椿は現在、
付き合っている。

一応⋯⋯な。

だが俺達は世間一般でいうところカップルのような
相思相愛という状態ではない。

俺達はお互いの家の勢力拡大のために
齢6歳にして婚約をしたのだが、

それはあくまで周りの大人たちによる決め事だったと。

コイツも大人になって、
それではいけないと、

自分自身の意思で俺と、
つまり藤堂椿と向き合おうとしているらしい。

話し合いの結果、皇は俺との正式な婚約を
待ってくれることにはなったのだけれど、

その期間っていうのは、
あくまでお互いの事をよく知るための時間ってことで、

俺達は交際期間っていうのを
設けることにしたのだが⋯⋯。

ぶっちゃけて言っちまうと、
コイツはもうすぐ
ヒロインの高山葉月に出会うんだよ。

彼らは出会い、恋に落ち、結ばれるという

王道の恋愛ストーリーなわけだが、

如何せん俺、悪役令嬢なわけで、

だけど二人の仲を邪魔したくはないし、
増して破滅なんて、
まっぴらごめんッて感じなんだよなぁ〜。

とはいえ、現時点で俺が皇の婚約者であることは、
変えようののない事実なわけで。

俺も今までのように
皇のことを避け続けるのはやめて、
ちゃんと向き合おうとは思っているんだ。

皇といい関係を築くことは、
後々俺の破滅を回避するのにも
役立つだろうし、

腹を割って話してみれば、
皇自身もそんなに悪いやつではなかったしな。

一応やんわりと、
コイツが傷つかないように
かなり遠回りに断りを入れてみたのだが、

「なんだか君は、
まるで僕から
逃げる準備をしているみたいだね」

そう言われてしまった。

それは⋯⋯そうなんだけど。

胸が⋯⋯痛む。

ああもう、くそっ!
なんでそんな顔をするんだよ!

俺達はただの政略結婚だろうがっ!

なのに傷ついたような、
必死に痛みに耐えるかのような、

悲しげな顔⋯⋯。

俺はっ!
てめぇのそんな顔、
見たくねぇよ!

俺は下を向く。
そしてきつく唇を噛んだ。

あれ? なんだ、これ?

また、なんか
妙なテンションになってしまった。

「いいよ。君の心の準備ができるまで
僕はちゃんと待つことにする」

その言葉に顔を上げると
皇と目があった。

皇の俺を見つめる眼差しが深い。

その深さに俺はたじろぐ。

そんな俺の動揺もすべてを見透かして、
皇が俺に笑いかけた。

それは、なんだか泣きたいような笑みだった。

「な〜んか、
本当は公にできない愛人みたいで
嫌なんだけどね」

そう言って肩を竦めて見せた。