「ごめん」
俺は皇に謝った。
「ちょっ、そこで謝らないでくれる?」
皇が更に複雑な表情をする。
「いや、でも、俺⋯⋯」
コイツを傷つけているという自覚はある。
自分が皇の立場だったら
きっと俺は傷ついていると思う。
恋愛感情のある無しは別にしても、
コイツは俺に、
精一杯の誠意を示してくれたのに。
だけど俺の脳裏には、
どうしたってヒロインが現れたあとの
破局と、断罪のシーンが頭を過るのだ。
皇は仕方ないにしても、
他の友人たちまで、
手のひらを返して⋯⋯っていうのが
正直恐い。
恐くて仕方ない。
だったら最初から、そんなもの公にしたくない。
ヒロインが現れても、
俺が身を引けばいいだけの状態に
しておきたいのだ。
コイツが言うように
コイツから逃げる準備をしておきたいのだ。
だけどそうすると、
どうしたってコイツのことを傷つけてしまう。
俺は最近それが辛い。
コイツの顔を曇らせてしまうのが
辛くて仕方ない。
俺以外の誰かと結ばれるにしても、
コイツには笑っていて欲しい。
誰よりも幸せでいて欲しいと、
泣きたいほどに願ってしまう。
「いいよ。君がそう望むなら、
日陰の愛人にでも何にでもなってやる!」
そう言って、皇が
ちょっと泣きそうになってしまった俺の
頭をクシャリと撫でた。
それは乱暴だけど、優しい温もりで、
だから俺は、泣かずに済んだ。
「日陰の愛人って⋯⋯
その言い方やめてくれない?
なんか俺の罪悪感が大変なことに
なっちゃうんですけどっ!」
俺の抗議に皇は少し安心したように
笑みを漏らした。
「この僕に日陰の愛人を強いるのだから、
そこはしっかりと罪悪感に苛まれるといいよ。
そしてとっとと罪悪感に耐えきれなくなって、
僕達の関係を公にすればいいさ」
皇は憎たらしそうに、
鼻の頭にシワを寄せた。
「お前は俺との関係を公にしたいのか?」
俺は恐る恐る
皇に尋ねてみた。
コイツにとって、
俺との関係を公にするメリットって何なんだろう。
『俺のことを知るため』って言うんなら、
個人的に一緒に時間を過ごせばいいだけの話だしな。
何も公にする必要はない。
「そりゃあ、まあ、
どうせなら何事も
正々堂々としていたいからね。
あと、害虫駆除的な要因を兼ねての
牽制かな」
害虫駆除⋯⋯ねぇ。
?
どういう意味なんだ?
「じゃあ、どうして待ってくれたんだ?」
皇がじっと俺を見つめた。
やっぱりその眼差しが深くて、
俺を泣きたいような気持ちにさせる。
「君の気持ちを尊重したいと思ったから」
その真剣な眼差しと言葉に、
俺は一瞬幻影を見た気がした。
それはとんでもなく突拍子で
絶対にあり得ない、
まさしく幻想なんだけど
『俺って、ひょっとしてコイツに
めちゃめちゃ愛されている???』
そんな突拍子もない考えが
一瞬脳裏を過った。
いやいやいや、
ないないないないない。
俺は頭に浮かんだ危険思想を
全身全霊で全否定する。
だったらなぜ、コイツは
俺の気持ちを尊重してくれるんだろう。
単純に実はめっちゃいい人、
なんだろうか。
多分⋯⋯そうなんだろうな。
そんな気がした。
「おまえってさぁ⋯⋯
ひょっとして本当はめっちゃいい奴なのか?」
俺は心に思ったことを
ストレートにぶつけてみた。
「はっ、はあ? そんなわけないじゃん。
君は一体何を勘違いしているのかな?」
皇がめっちゃ赤面して、
全否定してくる。
「僕は天下の皇愁夜だよ?
きっ⋯⋯君は⋯⋯そう、
一応皇のビジネスパートナーだから。
一応な。
そっ⋯⋯それだけの話しだ」
そうか。
皇の⋯⋯
ビジネスパートナーだから⋯⋯なのか。
「そっ⋯⋯そうだよな!
お前がそんなしおらしい
人間なわけないよな!
あ〜良かった〜、安心した〜」
俺はほっと胸を撫でおろした。
同時に最近コイツと顔を合わせる度に感じていた
妙なテンションっていうのが、
一気に吹っ切れた。
「ちょっ⋯⋯なんでそこで安心してんの?」
皇が一瞬真顔になった。
笑いが込み上げた。
いや、本当は
笑い飛ばしてしまいたかったのかもしれない。
皇の真顔も、それを真に受けて
あらぬ妄想を抱いてしまった自分のことも。
全部笑い話のネタにして、
終わらせてしまいたかった。
「あのさ、俺、今、ひょっとしたら
『お前にめちゃくちゃ
愛されてるのかもしれねぇ』って、
変な妄想しちまってよ、
あっはははは、我ながらマジでウケるっ!
正気の沙汰じゃねぇしっ!」
笑いが込み上げて
止まらない。
虚無な心から溢れる
とても乾いた笑いが
次から次に波になって押し寄せる。
本当の心とは裏腹に。
だけど皇は笑わなかった。
少し目を赤くして
そっぽを向いた。
「えっ? お前何泣いてんの?
そこ、笑うとこだろ!
爆笑ポイントだろ!」
俺は皇に笑うことを強要した。
笑い飛ばして欲しかった。
そしたら俺は
きっとコイツへの
想いを完全に吹っ切ることができると
思ったんだ。
「あまりにもくだらなさ過ぎて
僕にはちょっと笑えないかな」
皇が笑った。
だけど皇の浮かべた笑みは、
俺が求めていたものとは違った。
氷の微笑。
見るものすべてを凍てつかせるような、
震え上がらせるような、
帝王の微笑。
「それよりも、僕は君の条件をのむ代わりに
君にもペナルティーを課すことにするよ。
でないと不公平だろ?」
皇の射るような視線が、
俺を貫く。
「ペナルティー⋯⋯とは?」
俺は皇に負けじと、
ぐっと腹に力を入れる。
「たとえ非公式であっても
僕達は付き合っている。
それなら君にも誠意を見せて欲しい」
皇の発する言葉の端々には、
毒がある。
「何をすればいいんだよ?」
俺は注意深く皇を見つめた。
「僕にキスをして欲しい。もちろん唇に」
表情一つ変えずに、
コイツ今しれっと、
とんでもないことを言いやがったぞ!
「はっ、はあ?」
あまりにも驚きすぎて、
思わず俺は素っ頓狂な声を出してしまった。
俺は皇に謝った。
「ちょっ、そこで謝らないでくれる?」
皇が更に複雑な表情をする。
「いや、でも、俺⋯⋯」
コイツを傷つけているという自覚はある。
自分が皇の立場だったら
きっと俺は傷ついていると思う。
恋愛感情のある無しは別にしても、
コイツは俺に、
精一杯の誠意を示してくれたのに。
だけど俺の脳裏には、
どうしたってヒロインが現れたあとの
破局と、断罪のシーンが頭を過るのだ。
皇は仕方ないにしても、
他の友人たちまで、
手のひらを返して⋯⋯っていうのが
正直恐い。
恐くて仕方ない。
だったら最初から、そんなもの公にしたくない。
ヒロインが現れても、
俺が身を引けばいいだけの状態に
しておきたいのだ。
コイツが言うように
コイツから逃げる準備をしておきたいのだ。
だけどそうすると、
どうしたってコイツのことを傷つけてしまう。
俺は最近それが辛い。
コイツの顔を曇らせてしまうのが
辛くて仕方ない。
俺以外の誰かと結ばれるにしても、
コイツには笑っていて欲しい。
誰よりも幸せでいて欲しいと、
泣きたいほどに願ってしまう。
「いいよ。君がそう望むなら、
日陰の愛人にでも何にでもなってやる!」
そう言って、皇が
ちょっと泣きそうになってしまった俺の
頭をクシャリと撫でた。
それは乱暴だけど、優しい温もりで、
だから俺は、泣かずに済んだ。
「日陰の愛人って⋯⋯
その言い方やめてくれない?
なんか俺の罪悪感が大変なことに
なっちゃうんですけどっ!」
俺の抗議に皇は少し安心したように
笑みを漏らした。
「この僕に日陰の愛人を強いるのだから、
そこはしっかりと罪悪感に苛まれるといいよ。
そしてとっとと罪悪感に耐えきれなくなって、
僕達の関係を公にすればいいさ」
皇は憎たらしそうに、
鼻の頭にシワを寄せた。
「お前は俺との関係を公にしたいのか?」
俺は恐る恐る
皇に尋ねてみた。
コイツにとって、
俺との関係を公にするメリットって何なんだろう。
『俺のことを知るため』って言うんなら、
個人的に一緒に時間を過ごせばいいだけの話だしな。
何も公にする必要はない。
「そりゃあ、まあ、
どうせなら何事も
正々堂々としていたいからね。
あと、害虫駆除的な要因を兼ねての
牽制かな」
害虫駆除⋯⋯ねぇ。
?
どういう意味なんだ?
「じゃあ、どうして待ってくれたんだ?」
皇がじっと俺を見つめた。
やっぱりその眼差しが深くて、
俺を泣きたいような気持ちにさせる。
「君の気持ちを尊重したいと思ったから」
その真剣な眼差しと言葉に、
俺は一瞬幻影を見た気がした。
それはとんでもなく突拍子で
絶対にあり得ない、
まさしく幻想なんだけど
『俺って、ひょっとしてコイツに
めちゃめちゃ愛されている???』
そんな突拍子もない考えが
一瞬脳裏を過った。
いやいやいや、
ないないないないない。
俺は頭に浮かんだ危険思想を
全身全霊で全否定する。
だったらなぜ、コイツは
俺の気持ちを尊重してくれるんだろう。
単純に実はめっちゃいい人、
なんだろうか。
多分⋯⋯そうなんだろうな。
そんな気がした。
「おまえってさぁ⋯⋯
ひょっとして本当はめっちゃいい奴なのか?」
俺は心に思ったことを
ストレートにぶつけてみた。
「はっ、はあ? そんなわけないじゃん。
君は一体何を勘違いしているのかな?」
皇がめっちゃ赤面して、
全否定してくる。
「僕は天下の皇愁夜だよ?
きっ⋯⋯君は⋯⋯そう、
一応皇のビジネスパートナーだから。
一応な。
そっ⋯⋯それだけの話しだ」
そうか。
皇の⋯⋯
ビジネスパートナーだから⋯⋯なのか。
「そっ⋯⋯そうだよな!
お前がそんなしおらしい
人間なわけないよな!
あ〜良かった〜、安心した〜」
俺はほっと胸を撫でおろした。
同時に最近コイツと顔を合わせる度に感じていた
妙なテンションっていうのが、
一気に吹っ切れた。
「ちょっ⋯⋯なんでそこで安心してんの?」
皇が一瞬真顔になった。
笑いが込み上げた。
いや、本当は
笑い飛ばしてしまいたかったのかもしれない。
皇の真顔も、それを真に受けて
あらぬ妄想を抱いてしまった自分のことも。
全部笑い話のネタにして、
終わらせてしまいたかった。
「あのさ、俺、今、ひょっとしたら
『お前にめちゃくちゃ
愛されてるのかもしれねぇ』って、
変な妄想しちまってよ、
あっはははは、我ながらマジでウケるっ!
正気の沙汰じゃねぇしっ!」
笑いが込み上げて
止まらない。
虚無な心から溢れる
とても乾いた笑いが
次から次に波になって押し寄せる。
本当の心とは裏腹に。
だけど皇は笑わなかった。
少し目を赤くして
そっぽを向いた。
「えっ? お前何泣いてんの?
そこ、笑うとこだろ!
爆笑ポイントだろ!」
俺は皇に笑うことを強要した。
笑い飛ばして欲しかった。
そしたら俺は
きっとコイツへの
想いを完全に吹っ切ることができると
思ったんだ。
「あまりにもくだらなさ過ぎて
僕にはちょっと笑えないかな」
皇が笑った。
だけど皇の浮かべた笑みは、
俺が求めていたものとは違った。
氷の微笑。
見るものすべてを凍てつかせるような、
震え上がらせるような、
帝王の微笑。
「それよりも、僕は君の条件をのむ代わりに
君にもペナルティーを課すことにするよ。
でないと不公平だろ?」
皇の射るような視線が、
俺を貫く。
「ペナルティー⋯⋯とは?」
俺は皇に負けじと、
ぐっと腹に力を入れる。
「たとえ非公式であっても
僕達は付き合っている。
それなら君にも誠意を見せて欲しい」
皇の発する言葉の端々には、
毒がある。
「何をすればいいんだよ?」
俺は注意深く皇を見つめた。
「僕にキスをして欲しい。もちろん唇に」
表情一つ変えずに、
コイツ今しれっと、
とんでもないことを言いやがったぞ!
「はっ、はあ?」
あまりにも驚きすぎて、
思わず俺は素っ頓狂な声を出してしまった。

