「ゆうくんは、いつもやさしくて、かっこよくて、ヒーローみたいだね!」



幼い頃から、僕はずっと、キミのヒーローだったみたい。



「ゆうくんは、好きな子とかいるの?」




「いるよ」



中学生の時に投げられた言葉。



好きな人なんて、キミ───奈南しかいない。



「え!そうなの!?ゆうくんが好きになるってことは、きっと素敵な子なのかな?ふふふ」




無邪気な笑顔。可愛いなって、いつも思う。



でも、きっと、奈南は僕を”ヒーロー”として見ていて、”好きな人”としては見てくれない。



「ゆうくん、私好きな人出来たかも」



高校生の時、そう言われた。



その男は学年でもかっこいいって噂だった。



可愛い奈南と、悔しいけど、すっごくお似合いだった。




僕は応援した。



だって、キミのヒーローだから。



奈南はその男と付き合った。



僕には見せない、真っ赤な顔で笑って、その男と手を繋いで歩く姿が、いつも寝る前に頭をよぎる。



でも、仕方ない。



僕は喜ぶべきだから。



「ゆうくん、別れちゃった」



目を真っ赤にして笑うキミが、少し恨めしくなった。



もう、期待させんなって。



僕はずっとそれから奈南の隣に、いつも以上に居るようになった。


勉強を教えたり、一緒に登下校したり、たまに電話をしたり。



僕は奈南を好きだけど、奈南は僕を好きじゃない。ヒーローだと思ってる。



それでいい。



大学生になった。



僕は地方の大学へ行った。



初めて、奈南と離れた。



別れる時、「必ず戻ってくるよ」って言った。



奈南は「待ってるよ!」って、可愛い笑顔で僕の背中をポンと押した。



奈南は、僕を好きになってくれない。









──────────でも、ちょっとくらい、僕を男として見てくれてるんじゃないか。





なんて。




奈南とは定期的にメールをした。


「ゆうくんは、いつも私の味方だね。ヒーローだ」




「ゆうくんのことは、私がよく知ってるね!」




「ゆうくん、ちゃんとご飯食べてる?」






僕は奈南の方が心配だよ。



また泣いてないかなって。



いつだって駆けつけてあげるよ。



いつでも、キミを探してしまう。



真夏のひまわりのように明るく笑うキミを、必死に探すんだ。



奈南が好きだから。大好きだから。愛してるから。




誰よりも大切で、幸せになって欲しいから────












「──────ゆうくん、私、結婚する。結婚式、来てね笑」







僕は────そんなキミに、”おめでとう、幸せになってね”






─────って、言ってしまうんだ。










***


いつだって、私のヒーローのゆうくん。



いつからだろう。



ゆうくんを、”ヒーロー”じゃなくて、”男の子”としてみるようになったのは。




でも、ゆうくんは優しすぎて、たまたま私が幼なじみだから一緒にいてくれるんだろうなって。




何度かカマをかけた。



好きな人が出来たわけじゃないのに、好きな人が出来たって嘘をついた。



そしたら、ゆうくんったら、応援してくれるの。



バカみたいだよ。



ゆうくんを忘れたくて、好きでもない男の子と付き合った。



ちょっとでも嫉妬してくれるかなって思ったけど、ダメだった。



ゆうくんは気を使ってか、付き合い始めてから私から距離をとった。



張り裂けるくらい嫌だった。



だから別れた。



ゆうくんが寄り添ってくれた。


涙が止まらなかった。



悠くんが好きすぎて、優しすぎて。



この気持ちを言ってしまえば、なにかが変わるだろうか。



いや、困らせる。



怖くて言えなかった。




ゆうくんは地方の大学に行くことになった。



大泣きしたけど、笑って見送った。



大好きだよ。ゆうくん。



ゆうくんが地方に行っても、ゆうくんは、忘れられぬ人だった。




でも、ゆうくんはきっと、私を、好きとは言ってくれない。




私はゆうくんにとって、ただの幼なじみだから。



大人になって、プロポーズしてくれた男性の方がいた。




素敵な人だった。



私は受け入れた。



結婚の話をゆうくんにした。



期待したんだ。




「いやだ」



否定の言葉を。












「───────おめでとう、幸せになってね」






ゆうくんは、最後まで私のヒーローだった。




















いつだって、僕は奈南の幸せが大切だった。
──────好きだから。愛してるから。




いつになっても、私はゆうくんを探してしまう。
あなたのようなヒーローは、多分、もう出会えない。
──────大好きで、忘れられないから。





あなたと一緒に過ごす日々は幸せで、温かくて、大好きだった。



来世では、キミに好きって言ってみたい。



そしたら




もしかしたら





あなたも




「好き」



って、返してくれるかもしれない。




キミが、僕を、好きかもしれない。





あなたが、私を恋人にしてくれるかもしれない。





それだったら、どんなに幸せなんだろうな。




















あまりにも好きすぎて、嫌われたくなくて、離れられたくなくて、怖かったから言えなかった。








──────言えなかった、好きという言葉を。