運命を変えた?分間

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 それは瞬間と言うには余りにも長過ぎた……
 でも……
 では?
 一体、何分間だったのだろう……

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 その日の私も……“いつも通り”だった。

 『タムパよいちょまるでインスタやTokを弾く量産型女子』をパフォームしながら……私はアセアセする事無く電車へ乗り込む。

 もうオトナ女子なんだから……勿論、車内で“後付け”メイクなんてしない。
 寝不足や××不足でできたクマはコンシーラーでバッチリとカモフラージュ済だ!

 でも、いつもの事ながら……この電車はよく揺れる。
 こんなに揺れる電車の中で“後付け”メイクをしていたJKの頃の私は……
 
 「よくもまあ! マスカラブラシで目を突いたりしなかったよなあ~」
 って笑っちゃうけど……
 それはきっと今より身体能力が高かった証だ!

 なんて、微笑ましい?過去の自分に想いを馳せていると……電車がガタン! とひときわ大きく揺れて……“年寄り”の私は大きくバランスを崩してよろめいた。
 「「危ない!!」」

 そう叫んだのは自分の心の声だけでは無い!
 若い男の声がした!

 次の瞬間、私の顔は胸板厚いスーツへとダイブして……きれいな薄水色のワイシャツへ思いっ切りコンシーラーとマスカラを“押印”してしまった!

 「ヤバい!!」

 慌てて顔を離そうとしたらグイッ! と引き戻された。

 髪が!! スーツのボタンに絡んでる……

 「あの! ホントに! スミマセン!!」

 ああ!! みっともない!
 今朝から一所懸命に保ってきた“オトナ女子”が台無し!!
 泣き過ぐる~!!

 なのに無情にもまた電車が揺れ、あたふたとよろめく私の顔はワイシャツへグリッ! とダメ押し!!

 「慌ててはいけません! あなたがお怪我なさいます」

 さっきとは違う……落ち着いた声を私は“その人”の胸で聞く。

 「見知らぬ男から髪を触られるのも不愉快でしょうが……今、解き(ほどき)ますから」

 「あの、私のバッグの中……ソーイングセットがありますから、髪をハサミで切って下さい」

 「大丈夫ですよ。この絡み方なら解けます。どうか少しだけ我慢して下さい」

 ULTRAMARINEだろうか……ほんのり温かい胸にマリンノートが微かに香る。
 それが……私の睡魔を揺り動かす。
 
 こんな状況なのに……昨夜の睡眠不足が祟った様だ!
 うん!
 そうに違いない!
 けど……

 「解けました!」

 語り掛けるこの人の笑顔が素敵過ぎて……
 私は耳まで赤くしながら頭を下げた。

 「あの! ワイシャツ代はお支払いしますから!」

 ああ!!
 何を言ってるんだ私は!
 いや、これでいいのか??

 「別にいいですよ」

 「でも、このままじゃお仕事に差し障ります!」

 「どこか、洗面所で洗ってみますよ」

 「いいえ! そんな訳には!! もし、少しお時間をいただけるならクレンジングシートを試してみたいのですが……」

 ちょうど途中駅の待合室に誰も居ないのが見えたので……私達は一旦、電車を降りた。

 そして待合室の中。
 ワイシャツを脱いで白いTシャツ1枚の彼の胸は……やはり私の体感通り逞しい。
 そのカレの横で私はクレンジングシートとティッシュを使ってのシミ落とし。

 「お時間、大丈夫ですか?」

 「えっ?! 私の事より……あの! お名前もまだ伺ってないので……お教え下さいますか? 私は佐野あやりと申します。『あやり』は平仮名です」

 「素敵なお名前ですね。私は谷口学人と申します。『学ぶ人』と書きます。で、佐野さん! 会社? 遅刻なさるのでは?」

 「連絡を入れて午前半休にしてしまうから大丈夫です。あの、谷口さんは?」
 「私は今日は……外回りの“アポ無し”新規開拓ですから、どうとでもなります」

 この時、ちょっといたずらっ子の微笑みでウィンクしたカレに……私は完全にズッキュン来た!! で、“肉食系だった”昔をほんの少し思い出して……カレにこう提案する。
 「じゃあ、少しだけカフェでおさぼりしませんか? お詫びに奢らせて下さい!」

 縁は異なもの味なもの!!

 こうして私は……素敵な恋を見つけたのだった!



                                <了>