もう一度、君の手を握る

「……なるほど、若林さんが言いたかったことって……」

 俺は顔を上げて若林さんの目を見ながらそう話す。ひょっとして、俺から幼なじみを奪った相手のことについてだろうか。

「あなたが思っているとおりね。ところで、あなたは相手のことを憎いと思ったことがあるかしら?」
「相手って、俺から大切なものを奪った相手のことか?」
「そうよ」

 一瞬だけ思い出した。
 最初、俺はサッカー部を辞めてそいつに仕返しをしようと思ったことがある。
 とはいえ、そんなことをしても幼なじみが戻ってくるわけがない。結局、俺はほかの被害者と同じように自分の中で抱え込むしかなかった。
 俺は無言でうなずくと、「だけど……」と付け加える。

「だけど?」
「大切なものを奪った相手と同じになるだけだと思った。だから俺は……」
「耐える道を選んだ、と」

 俺はまた無言でうなずく。

「ああ、そうさ。俺はウェブ小説のように戦うことすらできない臆病者さ。卑怯な手を使えない俺は……、俺は……っ!」

 涙声になって、またテーブルに伏せる。

 誰かを傷つけたくはない。誰かを陥れたくない。それで世間が許してくれるかと思ったら、大間違いだった。
 この世は狡猾な人間が幅を利かせ、俺のような純粋な人間は隅に追いやられる。
 復讐すらできない俺は、狡猾な人間のおもちゃにされるのが世の常だ。