もう一度、君の手を握る

「ひょっとして、茶道部に入れっていうんじゃないだろうな」

 不審そうな目で若林さんを見つめる。

「最悪の場合は、ね。ところで青葉君って、女の子が多いところはイヤなの?」
「イヤというか、なんというか……」

 視線を合わせないようにして口をつぐむ。
 若林さんの目を見ると、ありとあらゆることを思い出してしまう。

「ひょっとして、向こうの高校で何かあったの?」
「ああ、あったさ。俺、向こうではサッカーをやっていたんだ。だけど……」
「だけど?」

 言えない。
 俺を応援したいがためにチアリーダーにまでなった幼なじみがいたことを。
 そして、その幼なじみと付き合っていたことを。
 サッカー部の部長がプレイボーイでありながら学校のお偉いさんの息子で好き勝手していたことを。
 俺が部長にあらぬ罪を着せられ、いじめの対象になったことを。
 誰も傷つけたくない俺の性分が災いして何も手を出せず、一人で抱え込んだことを。

「……言えないの?」

 俺は無言でうなずく。
 ……ん? 若林さん、何かを取り出したぞ。

「こんなのを聞くのもなんだけど、青葉君が向こうの学校で味わったことって恋愛小説でありがちなことかしら」