――なあ、聞いたか。一年四組の青葉ってやつ、チア部の多摩さんに暴力をふるったらしいぞ。
 ――嘘だろ? あのおとなしい青葉が?
 ――青葉のやつ、サイテー。
 ――多摩さんに手を出すなんて、信じられない。

 俺の耳元からは幻聴が聞こえる。それに、クラス中の視線が冷たく感じる。

「うぅ、俺じゃない……、俺じゃないのに……」

 心臓がドキドキして止まらない。日に日に暖かくなっているというのに、体の震えが止まらない。
 額から汗が噴き出す。おまけに、呼吸ができない。俺を迎え入れているみんなの視線が怖い。どうしていいのかわからない。
 どうしようもなくなり、俺はその場でしゃがみこむ。

「大丈夫か、青葉」

 富沢先生の声が聞こえてくる。それだけではない。

「大丈夫か?」
「しっかりして!」

 同じクラスの生徒たちが俺のもとへ駆け寄る。
 転校初日で保健室に行くなんて、そんな恥ずかしいことはできない。

「大丈夫です。しばらくすれば収まります。そのうち……」

 俺は先生にそう話し、鼻から大きく息を吸い、口から吐き出す。

「スー、ハー、スー、ハー……」

 深呼吸を繰り返すうちにドキドキが収まり、ゆっくりと立ち上がる。
 心配そうに見ていたクラスメイトたちは俺が立ち上がると同時にほっとした顔をして、それぞれの席へと戻って行った。