もう一度、君の手を握る

 ……ああ、そうか。俺は知らないうちに若林さんのことが好きになったんだ。
 幼なじみのこととか、あらぬ罪をかぶせられたこととか、もうそんなのどうだっていい。若林さんにお礼をしなければ。
 俺は椅子から立ち上がって、若林さんの顔をじっと見つめる。

「若林さん!」
「なあに?」

 タオルで汗をぬぐい、マイボトルに口をつける若林さんに迷わず声をかける。
 部室の中は明らかに文化部そのものだ。だけど、運動部の部室にいる感じがする。若林さんが着ている衣装のせいだろうか。
 いや、そんなことは気にしていられない。お礼を言わないと!

「ありがとう。あなたのおかげで俺、元気になったよ」
「……ホント?」
「本当さ。俺、向こうで大変な目に遭ってからずっと……」

 どうしたのだろうか。次の一言が出てこない。それに、胸のドキドキが止まらない。
 ひょっとして俺、若林さんのことを好きになったのか? いや、俺と若林さんは出会ってまだ一日しか経っていないはずだ。

「どうしたの?」

 若林さんが俺のことを不安そうな目で見つめる。そんな目で見ないでくれ、股間のジュニアが反応してしまう。

「……俺、若林さんのことがす、す……」
「す?」
「好きに……なっちゃったんだ」
「えっ……?」

 言った。というか、言ってしまった。
 出会ってまだ一日しか経っていないのに、なぜ好きになったのだろうか。
 ――ああ、そうか。若林さんの笑顔が俺の心を溶かしてくれたのか。

「智也、それってホント?」
「本当だよ。この気持ちは嘘じゃないよ」
「つらいことも忘れられそう?」
「もちろんさ」

 俺は力強くうなずいた。
 川崎の地でつらい思いを味わった俺だけど、この地でならばやり直せる。
 そう感じた瞬間、甘い汗の香りが体にまとわりつく。

「ありがとう、そう言ってくれて」

 気がついたら、若林さんが抱きついていた。
 汗の臭いもさることながら、柔らかい凶器が体に当たっている。
 このまま先生に見つかったら、不純異性交遊を疑われる!

(いや、今は何も考えなくていいか……)

 何も言わず、俺は若林さんの体を抱きしめていた。
 もう、誰に何を言われてもいい。俺には若林さんがいるのだから。