「神奈川県川崎市から引っ越してきた青葉智也です。よろしくお願いします」

 引っ越しから数日が過ぎた。今日から俺は新しい学校へと通うことになった。
 緊張で身震いをしながらも自己紹介を終えた俺は軽くおじぎをする。
 頭を上げると、俺はクラスのみんなから拍手で出迎えられた。

(良かった。みんな俺のことを迎え入れてくれるんだな)

 俺がこの春から通うこととなった高校は広瀬川のほとりにある。自宅のあるマンションから歩いて三十分以内の場所にあり、通いやすさで選んだ。
 進学校というだけあって、教室で俺のことを見ている生徒たちは真面目そうだ。
 ほっと胸をなでおろしていると、俺の隣に立っている先生が口を開く。

「青葉って、前の学校ではサッカーをやっていたのか」

 担任の富沢先生がそう話しかける。
 年齢は父さんと同じくらいでありながら、誠実な感じがする。

「そうです。でも……」

 その次の言葉を言おうとすると、急に何も言えなくなる。
 声にわずかな曇りが差し、視線を床へと落とす。
 その次の瞬間、俺はふと何かを思い出した。そう、一番思い出したくない何かを――。