もう一度、君の手を握る

「おじゃまします」

 俺も若林さんの後を追って教室の中に入る。
 教室は意外と広く、長テーブルとパイプ椅子、それにスチール製の本棚があった。
 本棚にある本にはシールが貼られていて、そこには三桁の数字が割り振られていた。

「これらの本って、図書館から持ち出したものなのか」
「そうよ。除籍本といって、全部図書館でいらなくなった本なの」

 なるほど、本のタイトルを見ると『涼宮ハルヒの憂鬱』をはじめとして、『空の境界』、『姑獲鳥の夏』などひと昔前、もしくはそれ以上前の本が置いてある。

「いろんな本があるな」
「そうでしょ。私も本に魅せられて文芸部に入ったの。それと、今からとびきりのものを見せてあげるわ」

 若林さんが制服に手をかけると、吹奏楽部の演奏と合唱部の合唱に混じって上着とブラウスのこすれる音が聞こえる。
 振り返ってみると、教室の片隅で若林さんが制服の上着を脱いでいた。

「智也、気になるのはわかるけどこっちを見ないでくれる? その、は、恥ずかしい……から……」

 そう話す若林さんの顔は少しだけ赤く、見ているだけで顔が真っ赤になりそうだ。

「ご、ごめん」

 一言だけ謝ってから窓際から外に視線を向ける。
 歩道には傘を持った児童がはしゃぎながら歩道を駆けていた。おそらく小学三年生、もしくは四年生くらいだろう。

(いいなあ……)

 俺と幼なじみが無邪気に川崎の街を駆け巡っていた頃が懐かしい。だけど、そんな日々はもう遠い昔のことだ。
 幼なじみはもう俺のことなんて覚えていないだろう。ましてや俺が遠い仙台の地に住んでいるなんて――。