もう一度、君の手を握る

「なあ、いったいどこへ向かうんだよ」
「西校舎の二階よ」

 夕闇が少しずつ迫る校舎の中をひたすら歩く。
 四月とはいえ、午後五時近くになると少しずつ暗くなってくる。
 嵐が過ぎ去ったとはいえ、渡り廊下には強風が吹き荒れる。
 若林さんの後を追って歩くと、いつの間にかまた校舎の中に入っていた。
 階段を上った先で、若林さんが足を止めた。そして、俺も足を止める。

「ここよ。入って」

 教室で見たのと同じ形をした引き戸の下には、演劇部と文芸部がそれぞれ部員を募集するポスターが貼られている。
 第二視聴覚室と書かれたプレートの下には、演劇部と文芸部のプレートがぶら下がっている。

「なあ、ここって演劇部と文芸部の部室じゃないか」
「そうよ。今日は誰もいないの」
「誰も……って、若林さんはどこに入っているんだ」
「文芸部よ。あなたに見せたいものがあるんだけど、良いかしら」
「『見せたいもの』? いったい何なんだよ」
「いいから、入って」

 そう言いながら、若林さんは引き戸を開いて教室の中へ入る。