もう一度、君の手を握る

「青葉君……、いえ、智也……」

 耳元から優しい声が聞こえる。
 そんなのに構っていられる余裕なんて、これっぽっちもない。
 優しい声を振り払い、若林さんと視線を合わせないようにまたテーブルに伏せる。

「慰めはいらねえよ……。俺はどうせ卑怯な手すら使えない臆病者だよ……」
「そんなことないわ。逃げることだって重要よ」
「逃げたとしても、俺には何にもないんだ。友達はみんなあっちの街にしか……」
「私がこの街で最初の友達になってあげるから、こっちを向いて」

 若林さんは俺の背中をさすろうとする。
 慰めなんていらない。そんなことで俺が幼なじみを失い、冤罪をかぶせられ、いじめられたことを忘れることなんてできない。

「女の友達なんていらねぇよ! どうせいい男を見つけたら裏切るんだろう。そして俺をいじめのターゲットにするんだろう。違うか?」
「そっ……、そんなことはしないわよ! 私はね、出会ったばかりのあなたのことを心配して……」
「心配だって?」

 俺は体を起こして若林さんの顔に自らの顔を近づける。

「俺の気持ちがわかってたまるかっ! どうせ……」

 どうせ若林さんもあいつと同じようにイケメン男に近づいて、そいつに抱かれるのが常だろう――。
 そう言おうとした途端、隣に座っていた若林さんが立ち上がる気配を感じた。

「ねえ」
「……なん、……だよ」
「そんなあなたに、見せたいものがあるの」
「慰めはいらねぇよ……。どうせ俺は……、っ!」

 俺はまた顔を合わせないようにして涙を流す。
 俺に慰めなんていらない。彼女に甘えるなんてことはできない。いや、したくない。俺は俺で何とかやるまでだ。
 しかし、若林さんは俺のことなど意に介さなかった。