「ちょ、ちょっとキアラさん……! こんな夜に何騒いでるのよ! 」
思わず止めに入ると、彼女の視線の先にはナギがいた。
彼は申し訳なさそうに俯いて、鞄を大事そうに抱えている。
「……ーーっリリア様、この男、こんな物を鞄に入れていたんです」
キアラさんがそう言って差し出して来たのは、ヒーローのマスコットだった。
「まあ!これコズミック7のブルーじゃない! 」
「……5です」
ナギは少し言いにくそうに私の言葉を訂正する。
「あらっ」
今はアニメ放映範囲より3年も前、ホワイトとブラックは新規加入した隊員だったから5人しかいないのか。
まさかこんな所でヒーローの姿をお目に掛れるとは思わなかった。
しかし妙だ、彼らにとってヒーローは敵にあたる存在なのではないだろうか?
「ブラックホール団に身を置きながら、ヒーローを崇拝してるなんて……!
噂では聞いていましたがまさか本当だったとは! リリア様、近付いては駄目です。すぐにウリュウ様に報告しましょう」
やはり問題になるのか……
ウリュウはきっとこの厄介な事情を知った上でナギを推薦したに違いない、報告しても「知ってる」と返されるのが関の山だろう。
「…いいえ、駄目よ」
私はしばらく考えた後にそうはっきりと言い切る。
「!?」
「この子がヒーローを信奉してることなんて、ウリュウは知っててここに送り込んできた筈。
私と……グレイシャ家への侮辱だわ。ナギの沙汰は私が決める、解ったわね?たっぷりひどい目に合わせてやらないと」
私が言うとキアラさんは深く頭を下げた後
「なんと……誇り高き姿勢。それでこそグレイシャ家の次女です。
そういうことでしたら私はこれにて。」
と言って立ち去った。
「あの……」
不安そうに立ち尽くす彼にヒーローのマスコットを返すと、
「黙って着いて来なさい」
そう冷たく言い放って、私はナギと自室に戻った。
「り、リリア様……! お許しください! 俺は……! 」
私の部屋に入るなり、ナギは頭を深く下げて言う。
「さっきの、見せなさい」
「え……」
「壊したりしないわ、見せて」
ナギは恐る恐る鞄からマスコットを取り出すと、私に見せた。
「可愛いマスコットね! この人、貴方の推し? 」
「あ……そ、そう……! そうなんです! 僕はブルーが好きで……! 」
「どうしてこんな物隠してたのよ? 見つかったらただじゃ済まないでしょう? 」
「俺……ヒーローに憧れてるんです。
5年前、ブラックホール団と地球人との抗争に巻き込まれた時、ブルーは俺が異星人であると解っていながら守ってくれました。
……憧れて……しまったんです。駄目だと解っていながらもあの時のブルーの姿が忘れられなくて……」
「……そう」
「罰は受けます! どうか煮るなり焼くなり……! 」
「なんであなたを罰しなきゃいけないの?好きな物を咎める資格なんて私には無いのよ。」
「そんな……だって、リリア様さっき……」
「さっきのはあの場を切り抜けるための芝居! ああ、でもカモフラージュは必要ね。腕出しなさい」
私は目に付いた医療箱を取り出すと、ナギの腕に包帯を巻く。
「あの、あの……! 俺、悪の組織にいるのにヒーローが好きなんですよ!?
裏切り物なんですよ…!? 」
「別にまだ裏切っては無いじゃない、好きなだけで」
「……!」
ナギは躊躇ったように下を向くと
「俺の夢は! ヒーローになることなんです! それ……でもですか!? 」
と大きな声で言い放つ。
「いいじゃない!夢は誰にでも見る権利があるわ!ヒーローになったら私達敵同士ね。でも今のあなたなんかには負けてあげないわよ?」
「……おかしいですよ……! そんなこと言うなんて。
解った、リリア様も本当はお姉さんと同じ裏切者で……! 」
「それは違う」
今の状況は一旦置いておくとして、私の知る限りリリアは最後まで悪役然とした人物だった。
あまり好きなキャラクターではなかったが、その点に関しては認めている。
きっとそれは私がリリアになる前だって変わらなかった筈、そこは否定すべきだ。
「おかしいのはあなたの方、何かを好きな気持ちって他人にどうこう言われて変えられるものなの?
別に反逆を許した訳じゃないわ、胸の内にしまっておく分には咎めないってだけ。それじゃ物足りないかしら? 」
「いえ…! あの! 絆創膏貼り過ぎじゃ……」
「あれ」
カムフラージュに夢中になるあまり彼を絆創膏とガーゼだらけにしてしまった。
……まあ、見せしめには丁度いいかもね。
「内緒の話だけど……私も好きよ、ヒーロー」
「え!? 」
「貴方が夢中になってるヒーローとは少し違うかもしれないけど」
アニメに出てきたメンバーは現時点ではまだ子供の筈、
今のコズミック5は私の知らない人物達で構成されているのだろう。
ナギなら今の構成員についても詳しいかもしれない。話を聞けないだろうか?
「リリア様……あの」
「その『様』っていうのもやめなさいよ、どうせ同じくらいの歳でしょ? 私達」
「俺は今年で15になるので、リリア様のひとつ上です」
「ならタメ口でいいわよ!
名前もリリアでいいわ、2人の時ならね」
「リリア……? 」
「ふふ、そう!リリア! ねえ、ヒーローの話聞かせてよ。この時代のヒーローには詳しくなくて……」
「本当に話していいの? 」
「ええ、聞きたいわ」
彼は私の返事を聞くと明るい顔をして話し始めた。
ヒーローが好きなもの同士で話す時間は楽しくて、
私もつい時間を忘れて話し込んでしまう。
そして何より、リリアになってからで初めて友達のように気兼ねなく話せる存在ができたことが嬉しかった。
ーーー
リリアと話しすぎちゃったな……
部屋を出た頃にはもう深夜の2時……
かなり話し込んでしまったようだ。
あの子、俺の夢を否定しなかった。
いいじゃない!って笑ってくれた……変な奴、でもいい子だったな。
「おかえり、ナギ」
その声に思わず体を強張らせる。
俺の部屋の前に立っていたのは、ウリュウ様だった。
「で?どう?あの女。おかしな動向はあった?」
「まだ何とも言えませんが、もう少し様子を見れば分かるかもしれません」
「ふーん……一応警告しておくけど、変な情で人生棒に振るなよ?
あいつらがあれの味方をしている様なら……解ってるね」
ウリュウ様は身も凍るような目で俺を睨むと、何処かへ去っていった。
ーーーーーー
ナギが帰った後、私はベッドの上で彼の話の整理をしていた。
今のコズミック5の構成はこう、レッドとピンクがアニメと同じメンバーで、
グリーン、ブルー、イエローはアニメの構成員とは別人……
私の最推しブラックはブラックホール団を裏切ってヒーローになった所謂光堕ち枠、アニメのエピソードの中で加入したメンバーなので、勿論まだ存在していない。
せめてアニメ放映範囲の時空に来たかったなー、そうしたら戦うブラックが見れたのに……
でもそうか、そうしたら私リリアとして彼と戦わなくてはいけなくなる。
ん?待ってよ……?ということは、今ブラックってブラックホール団員なんじゃないの!?
もしかしたら既にすれ違っているかもしれない、彼がリリアにいじめられ心を病むという悲惨な未来を回避するためにも彼とは親しくしておきたいし、
探してみるのも一つの手では無いだろうか?
組織を裏切った自分に罪の意識を覚えながらも、過去を乗り越え正義のヒーローとして活躍するブラックの姿に私は心を打たれ、
辛い時はいつも彼のセリフを思い出しながら耐えていた。
それが今、ブラックが同じ世界に……どころか、同じ組織にいる……!
考えただけでとても心が踊る。
そう、これは悲惨な未来を回避するために必要なこと……!
ブラックを探して話してみる、これも目標に追加しよう!
思わず止めに入ると、彼女の視線の先にはナギがいた。
彼は申し訳なさそうに俯いて、鞄を大事そうに抱えている。
「……ーーっリリア様、この男、こんな物を鞄に入れていたんです」
キアラさんがそう言って差し出して来たのは、ヒーローのマスコットだった。
「まあ!これコズミック7のブルーじゃない! 」
「……5です」
ナギは少し言いにくそうに私の言葉を訂正する。
「あらっ」
今はアニメ放映範囲より3年も前、ホワイトとブラックは新規加入した隊員だったから5人しかいないのか。
まさかこんな所でヒーローの姿をお目に掛れるとは思わなかった。
しかし妙だ、彼らにとってヒーローは敵にあたる存在なのではないだろうか?
「ブラックホール団に身を置きながら、ヒーローを崇拝してるなんて……!
噂では聞いていましたがまさか本当だったとは! リリア様、近付いては駄目です。すぐにウリュウ様に報告しましょう」
やはり問題になるのか……
ウリュウはきっとこの厄介な事情を知った上でナギを推薦したに違いない、報告しても「知ってる」と返されるのが関の山だろう。
「…いいえ、駄目よ」
私はしばらく考えた後にそうはっきりと言い切る。
「!?」
「この子がヒーローを信奉してることなんて、ウリュウは知っててここに送り込んできた筈。
私と……グレイシャ家への侮辱だわ。ナギの沙汰は私が決める、解ったわね?たっぷりひどい目に合わせてやらないと」
私が言うとキアラさんは深く頭を下げた後
「なんと……誇り高き姿勢。それでこそグレイシャ家の次女です。
そういうことでしたら私はこれにて。」
と言って立ち去った。
「あの……」
不安そうに立ち尽くす彼にヒーローのマスコットを返すと、
「黙って着いて来なさい」
そう冷たく言い放って、私はナギと自室に戻った。
「り、リリア様……! お許しください! 俺は……! 」
私の部屋に入るなり、ナギは頭を深く下げて言う。
「さっきの、見せなさい」
「え……」
「壊したりしないわ、見せて」
ナギは恐る恐る鞄からマスコットを取り出すと、私に見せた。
「可愛いマスコットね! この人、貴方の推し? 」
「あ……そ、そう……! そうなんです! 僕はブルーが好きで……! 」
「どうしてこんな物隠してたのよ? 見つかったらただじゃ済まないでしょう? 」
「俺……ヒーローに憧れてるんです。
5年前、ブラックホール団と地球人との抗争に巻き込まれた時、ブルーは俺が異星人であると解っていながら守ってくれました。
……憧れて……しまったんです。駄目だと解っていながらもあの時のブルーの姿が忘れられなくて……」
「……そう」
「罰は受けます! どうか煮るなり焼くなり……! 」
「なんであなたを罰しなきゃいけないの?好きな物を咎める資格なんて私には無いのよ。」
「そんな……だって、リリア様さっき……」
「さっきのはあの場を切り抜けるための芝居! ああ、でもカモフラージュは必要ね。腕出しなさい」
私は目に付いた医療箱を取り出すと、ナギの腕に包帯を巻く。
「あの、あの……! 俺、悪の組織にいるのにヒーローが好きなんですよ!?
裏切り物なんですよ…!? 」
「別にまだ裏切っては無いじゃない、好きなだけで」
「……!」
ナギは躊躇ったように下を向くと
「俺の夢は! ヒーローになることなんです! それ……でもですか!? 」
と大きな声で言い放つ。
「いいじゃない!夢は誰にでも見る権利があるわ!ヒーローになったら私達敵同士ね。でも今のあなたなんかには負けてあげないわよ?」
「……おかしいですよ……! そんなこと言うなんて。
解った、リリア様も本当はお姉さんと同じ裏切者で……! 」
「それは違う」
今の状況は一旦置いておくとして、私の知る限りリリアは最後まで悪役然とした人物だった。
あまり好きなキャラクターではなかったが、その点に関しては認めている。
きっとそれは私がリリアになる前だって変わらなかった筈、そこは否定すべきだ。
「おかしいのはあなたの方、何かを好きな気持ちって他人にどうこう言われて変えられるものなの?
別に反逆を許した訳じゃないわ、胸の内にしまっておく分には咎めないってだけ。それじゃ物足りないかしら? 」
「いえ…! あの! 絆創膏貼り過ぎじゃ……」
「あれ」
カムフラージュに夢中になるあまり彼を絆創膏とガーゼだらけにしてしまった。
……まあ、見せしめには丁度いいかもね。
「内緒の話だけど……私も好きよ、ヒーロー」
「え!? 」
「貴方が夢中になってるヒーローとは少し違うかもしれないけど」
アニメに出てきたメンバーは現時点ではまだ子供の筈、
今のコズミック5は私の知らない人物達で構成されているのだろう。
ナギなら今の構成員についても詳しいかもしれない。話を聞けないだろうか?
「リリア様……あの」
「その『様』っていうのもやめなさいよ、どうせ同じくらいの歳でしょ? 私達」
「俺は今年で15になるので、リリア様のひとつ上です」
「ならタメ口でいいわよ!
名前もリリアでいいわ、2人の時ならね」
「リリア……? 」
「ふふ、そう!リリア! ねえ、ヒーローの話聞かせてよ。この時代のヒーローには詳しくなくて……」
「本当に話していいの? 」
「ええ、聞きたいわ」
彼は私の返事を聞くと明るい顔をして話し始めた。
ヒーローが好きなもの同士で話す時間は楽しくて、
私もつい時間を忘れて話し込んでしまう。
そして何より、リリアになってからで初めて友達のように気兼ねなく話せる存在ができたことが嬉しかった。
ーーー
リリアと話しすぎちゃったな……
部屋を出た頃にはもう深夜の2時……
かなり話し込んでしまったようだ。
あの子、俺の夢を否定しなかった。
いいじゃない!って笑ってくれた……変な奴、でもいい子だったな。
「おかえり、ナギ」
その声に思わず体を強張らせる。
俺の部屋の前に立っていたのは、ウリュウ様だった。
「で?どう?あの女。おかしな動向はあった?」
「まだ何とも言えませんが、もう少し様子を見れば分かるかもしれません」
「ふーん……一応警告しておくけど、変な情で人生棒に振るなよ?
あいつらがあれの味方をしている様なら……解ってるね」
ウリュウ様は身も凍るような目で俺を睨むと、何処かへ去っていった。
ーーーーーー
ナギが帰った後、私はベッドの上で彼の話の整理をしていた。
今のコズミック5の構成はこう、レッドとピンクがアニメと同じメンバーで、
グリーン、ブルー、イエローはアニメの構成員とは別人……
私の最推しブラックはブラックホール団を裏切ってヒーローになった所謂光堕ち枠、アニメのエピソードの中で加入したメンバーなので、勿論まだ存在していない。
せめてアニメ放映範囲の時空に来たかったなー、そうしたら戦うブラックが見れたのに……
でもそうか、そうしたら私リリアとして彼と戦わなくてはいけなくなる。
ん?待ってよ……?ということは、今ブラックってブラックホール団員なんじゃないの!?
もしかしたら既にすれ違っているかもしれない、彼がリリアにいじめられ心を病むという悲惨な未来を回避するためにも彼とは親しくしておきたいし、
探してみるのも一つの手では無いだろうか?
組織を裏切った自分に罪の意識を覚えながらも、過去を乗り越え正義のヒーローとして活躍するブラックの姿に私は心を打たれ、
辛い時はいつも彼のセリフを思い出しながら耐えていた。
それが今、ブラックが同じ世界に……どころか、同じ組織にいる……!
考えただけでとても心が踊る。
そう、これは悲惨な未来を回避するために必要なこと……!
ブラックを探して話してみる、これも目標に追加しよう!
