学校に向かう道中、ナギはフユキに詰め寄る。

「おい、詳しく話せ! お前ってブラックホール団の人間なのか? 」

「いいえ! まだどっちでもないです! 今日リリア様と決めます! 」

「何だそれ……」

アニメでは仲良しだった筈のブラックとホワイトが、こちらでは顔を合わす度喧嘩してばかり……なぜここまで相性悪いのだろうか?

「どうやってウリュウ様に粛清も何もされず解放されたんだ? 」

「粛清? はは、やだなーそんなのされる訳ないです! 
朝『一緒にお茶でもどうかな』って誘われて、美味しいマカロンご馳走してくれました! あのお兄さん結構いい人ですよ!」

フユキは無邪気に言い放つ。

「……ああー! この任務本当に嫌いだ! 」

ナギは頭を掻きながら叫んだ。
私もストレスの大部分を占めていると思うと申し訳なく思えてくる。

……この状況から頼みごとをするのは非常に気が引けるが……
以前、レッドの腕を見た時、彼の腕はボロボロだった。
能力の影響なので直したところでまた新たな傷ができてしまうとは思うのだが、あまりに痛々しかったので少しでも治癒できないかと考えていた。

そこで思い至ったのだが、ナギは治癒能力の持ち主、例えば私の生命力を毎日少しずつ吸ってもらい、それをレッドに使ってもらう事はできないだろうか?

「ね、ねえナギ……ちょっといいかしら? 」

「何? 」

「頼みたい事があって……こしょこしょ……」

「は!? 何でそんな事……! 」

「お願い! 一生の頼みよ!何でもするから、ね? 」

「なん……でも……」

「リリア様駄目です、ナギ君ぐらいの年頃の男子に何でもするとか言ったら
やらしい事させられるって相場が決まってますから」

「させねえよ! 黙ってろお前……ほんと嫌い! 」

ああ、こんな余裕のないブラック初めて見た。
これはこれで……少年らしくていいかもしれない。

ーーーーー

教室に入ると、暫くして金髪坊主が教室に入ってきて私の隣に座る。

「おはよ、リリア」

「おはよう、金髪坊主。なんだ、案外素直に時間通り来たのね。
取り巻きはどうしたの?」

「昨日の俺がダサかったから離れた。
あと俺のことはゆかりって呼んで」

「ゆかりね、了解! あー……まあ仲間の事は残念だったけど……結果的によかったんじゃない? あんなのどうせろくでもないわ」

「なあ、奥の黒髪……すっげえ睨んでくるんだけど」

ゆかりが促す先では、ナギが鬼の形相で彼を見つめていた。

「え……うわ! ちょっとどうしたの!? 具合でも悪い? 」

「いや……別に……」

「やだな、嫉妬に決まっ……むぐ」

フユキが言い切る前にナギは彼の口を塞ぐと、
「お前マジで一回死なないと解らないみたいだな?生命力かすっかすにしてやる!」
と言ってフユキに掴みかかる。

「喧嘩しないでったら!」

私達が騒がしくしていると、タイミング悪くレッドが教室に入ってくる。

「皆さんおはようございます…あれ、リリア…また君たちのグループが何かやらかしてるの?」

「違うのよ! 仲が良すぎてじゃれ合ってたの! よくあることでしょ! 」

「元気なのはいいけど、しっかり面倒見てね。」

「も、勿論……」

私は口角をぴくぴくと痙攣させながらレッドに笑いかけた。

「昨日、やりすぎだって偉い人から沢山怒られてしまったので、今日は昨日より少し優しい訓練内容にしたいと思います。」

安心した、あんなメニューを毎日こなしていたら体が壊れてしまう。

「やっぱりモチベーションを上げるには、フィールドワークが良いかなと思って……急遽ですがヒーロー本部の見学にいけることになりました! 」

レッドが言うと、教室に歓声が響く。
ヒーロー本部の見学……!? 現役ヒーローが見れるチャンスだ! 

浮かれていた私の脳に、今朝見た夢がフラッシュバックする。

「! 」

「……リリア、大丈夫? 」

ナギが小声で尋ねる。

「アネ・イル・ドウスル?」私は机を叩きモールス信号でナギに伝える。
ナギは少しはっとしたような顔をすると、
「マカセテ」とモールス信号で返事をした。

ーーー

生徒達は準備の為、30分後に再度教室に集まるよう指示された。
私達は空き教室にこっそり入ると、ブラックが荷物から何かを取り出し私に差し出す。

「眼鏡……」

「案外バレないもんだよ、眼鏡とマスク」

「相手は血縁よ? 」

「あとはこれだね」

ナギは私に何かを振りかける。

「わっ……何!? 」

「髪色を即席で変える粉。髪も降ろしちゃおう、ツインテールは目立つ。
リリアは銀髪が特徴的だから……これで何とか行けると思う。
黒髪も……似合ってるよ……?」

ナギが顔を赤くしながら言う。
私としては前世でも黒髪だったので馴染み深くてこちらの方が落ち着くかもしれない。
何よりブラックと髪の色がお揃いというところが気に入った。

「あ! いたいたリリア様! いなかったから探しちゃいまし……あれ?なんか雰囲気変わりました?」

フユキがそう言って元気に空き教室に入ってくる。

「雰囲気どころか色々変わり過ぎてるだろ。」

「もしかして目立つためのイメチェン……? んー俺、いつものリリア様の方が可愛いと思います。」

私、ホワイトに可愛いと思われていたのか。
嬉しいが今は浮かれている場合でも無いな。

「お、お子様にこの魅力は解らないと思うわ! 大人の女性と言えば黒髪ロングって相場が決まってるの! 」

「へえ」

「リリア、もうそろそろ集合だって」

フユキに続いて、ゆかりがそう言いながら空き教室に入ってくる。

「あれ、イメチェン? 可愛いね」

「あ、ありがと……」

この男、朝からやけに素直だな……昨日はあんなにイキっていたというのに別人みたいだ。

「この白いのならともかく、なんでお前までリリアに付き纏ってんだよ。」

不機嫌そうにナギが言い放つと
「え……リリアが俺のこと好きだから」
ゆかりはそう淡々と答える。

ナギはそれを聞いて「ヒュッ」と声にならない音を上げて黙り込んでしまった。

あ……そういえばそんな話になってたっけ……?
まずい、面倒なことになりかけてるような……

「俺、告白の返事はまだなんだけど……助けて貰ったし、結構悪くないって気ではいるから。」

ゆかりは照れ臭そうに言うと、「早く教室戻りなよ」と言って教室を出た。

「……あれって、レッド先生を騙すための嘘なんじゃないんですか? 」

「そのつもりだったけど、なんか真に受けちゃったみたいね。」

「え、嘘なの……? 」

ブラックが嬉しそうに尋ねる。

「当たり前でしょ! あんな最悪な出会い方でどうやって一目惚れなんかするのよ! 」

「そっかー……そうだよなー! 早く振ってやりなよリリア! 」

「こっちから告白したのよ? 難しいわ。それに大分いい子にしてくれてるし……嘘だってバレたら後が怖いじゃない。
何とかこう……なーなーに濁しておきましょ。」

「ああ……ふーん……了解。」

ーーーー

「皆集まったねー……あれ? リリア……だよ、ね?なんで髪染めてるの? 」

教室に集まって早々、レッドに指摘される。

「推し活の一環よ! 私の好きなヒーローは黒がテーマカラーなの!
だから髪色でファンアピールしてるんだけど、悪い!? 」

私の推しはブラックだ、決して嘘は言っていない。

「なる……ほど? 今の若い人って色々あるんだね。よし! それじゃあ早速皆で赤阪まで行こうか! いい子に見て回るんだよー。」

そう、浮かれてはいけない……これは仕事なのだ。
エリヤに見つかれでもすれば私は一巻の終わり、
楽しい見学の筈が一気に緊張感帯びてきた……どうか無事に終わりますように。