金髪坊主はマイクを取り出すと、レッドに向かって音波を出す。
レッドはそれを避けるが、音波が当たった壁には少しだけヒビが入っていた。

あの能力、やはり間違いない!
認めたくなかったがあのイキり金髪……!
コズミックイエローの「黄瀬ゆかり」だ!

イエローはホワイトの親友で優しく面倒見のいい青年だったのに、どうしてあんな横柄な態度をとるのだろう?

それにホワイトに対する態度にも引っかかる。
暴言を浴びせて掴みかかる等、とても仲のいい人間にする事とは思えない。
私の知らぬ()に未来が変わってしまったのだろうか?

金髪坊主の音波攻撃をのらりくらり交わすレッド。
レッドはやり返そうという様子も無ければ能力を使おうという様子すら見せなかった。

「とってもうるさいし周りを巻き込みそうな範囲攻撃だ。
やっぱり君、ヒーローに向かないんじゃない? 」

「勝てばいんだよ! 」

何かが擦れるような、耳障りな轟音が場内に響いた。
最早これは攻撃と言うより嫌がらせだ、私はその音の不快さに思わず耳を塞ぐ。

「あーもー! 鼓膜が破れる! 」

耳を塞ごうと思ったのかレッドがジャージを脱ぐと、その隙に距離を詰めて金髪坊主がダガーを持ち飛びかかる。

レッドはそれをまるで闘牛士のようにジャージごとひらりと交わすと、
そのまま流れる様に金髪坊主のダガーを持った手を掴みジャージを彼の口に押し込んだ。

「むぐ!? 」

そしてダガーを取り出すと、柄の部分で金髪坊主のみぞおちを強打する。

うわ、痛そう……

金髪坊主はそのまま地面に転がり込み、悶えていた。

……ずっとジャージを着ていて気付かなかったが、レッドの腕は傷や包帯でボロボロだった。
処置は不完全で、不器用な人間が適当に行ったように見える。
火傷だろうか? 中には生傷のようなものも確認できとても痛々しかった。

「あー……うるさかった。
ねえ、そこまでなったら君の負けでいいよね?
これは君の為だから言うけど、戦隊ヒーローになりたいならその能力を何とかするか、せめて社会性を持たないと誰も君を使わないよ。
あ、でも今日学校辞めるから関係ないんだっけ? 」

金髪坊主はふらつきながら立ち上がると、
「いや……まだやる……!
せめてあんたに能力使わせるまで……!」
と言って彼を睨む。

「そんな俺の能力が見たいんだ、
大して人を助ける訳でもない…つまらないあの能力が。」

レッドは伏せ目がちに言うと、金髪坊主に近付き物凄い量の炎を出してみせた。
こちらにまで熱が伝わる、あんな一瞬で一面を火の海にするなんて……!

「怖いだろ? 炎に包まれるとさ。
このまま呑まれるんじゃないかって不安になる。
熱くて……苦しくて……俺はこの能力、凄く嫌いだ。」

「あっ……つ」

レッドに腕を掴まれると、金髪坊主は苦しみだす。
このままじゃ金髪坊主……いや、イエローが負ける!

「リリア!? どこ行くの! 」

「これも勉強だね、自分より強い奴に無謀に挑むやつはいつか死ぬ。
この熱さと苦しさを思い出せば……きっともう死のうとしたりしないだろ。」

「待って! 」

私は炎のある場所に氷の山を形成する。
炎の海は殆ど鎮火し、場の空気はひんやりした。

「大丈夫……? ごめん、私氷しか出せないんだけど……」

「君……! 今朝の」

乱入した私を見て、レッドは目を丸くしながら呟いた。
このままじゃイエローが負けてしまう、そうしたらこの学校を辞めることになる。

本来なら当然の結果としか思わないが、アニメのイエローは善人だったので助けたい……何より!
イエローが学校を辞めてしまえばきっとホワイトが悲しい思いをしてしまう、それだけは避けなければ!

「何のつもり? 勝負に水差すなよ……あ、氷か。」

レッドが恐ろしい形相で言う。
とてもあのゼリーを配っていた少年と同一人物とは思えない。
しかし、強い者に臆せず立ち向かってこそ……悪役令嬢だ!

「私がこいつの代わりに謝るわ! あなたに舐めた態度を取ってごめんなさい! 」

私はそう言ってレッドに頭を下げる。

「な……!? 」

金髪坊主は驚いた様子でそれを眺めていた。

「でもこいつ、才能あるらしいの! 何か色々凄いらしいんだ! こいつの性格は私が何とかする、だから学校辞めるとかそういう話は無かったことにして欲しいの!
できたら授業にも出させてやって欲しい……! このとおりよ! 」

「君はその子の何なの?
今朝見てた感じ、仲がいいようにも思えないんだけど」

友達……は、イエローに否定されたら信じて貰えないし……なんて言ったら切り抜けられる?
そうだ!

「私、この子が好きなの! 今朝一目惚れして……! 」

「え!? 」

騒がしくなる場内、少し赤くなって驚く金髪坊主とは対照的に、ナギは積み木を理不尽に壊された時のような青い顔をしていた。

「だから更生させたい! 好きな人を正しい道に導きたいって感情は人としてごく当たり前のものでしょ!? 」

「あんた……そんなに俺のことを……? 」

金髪坊主は私を見ながら真っ赤な顔で呟いた。

「へえ、その素行不良生徒を俺が受け入れて何かメリットが? 」

いずれコズミック7のメンバーになるから……とは言えないし……

「この金髪が貴方の授業に出ればきっと優秀な成績を残してくれる!
そしたらあなたとしても鼻が高いでしょ!? 許してくれたら私達の恩人って思ってあげなくもないし! 」

「うーん……確かに成績のいい生徒はいるに越したこと無いか……? 」

レッドが腕を組んだ時、彼の腕にあるおびただしい数の火傷に目が行く。
私は彼の腕を掴んで引き寄せると、さっき出来たであろう物まで確認できた。
痛そう……いや、こんなの絶対痛い筈。
どうしてこんなにボロボロなのだろう?

「ねえ、火傷してる」

「えっ……いやこれは……! 見なくていいから! 」

レッドは焦ったように私の腕を振り払おうとする。

「何で? 痛くないの……? 」

その言葉に、レッドは初めて動揺したような態度を見せる。
今までずっと落ち着いていた彼のその表情が、少し異質に映った。

「わ、解った! 許すよ! 授業にも出て良い! だから手離して! 」

「ご、ごめんなさい」

私が手を離すと、レッドは金髪坊主のジャージを腰から奪い取ると急いで着込み
「……しっかり更生させてね、そこの彼」
と言ってその場を後にした。