全ての訓練メニューをこなすと、
私は息をするのもやっとなくらいに疲れて果ててしまった。

「ゼ―……ゼ―……だめ……もう立ってられない…! 」

「皆頑張ったね! 今日の訓練はこれで終わり! 初日だったし優しかったでしょ? 」

全員が「どこがだよ」と言わんばかりにレッドを睨む。
彼は一体普段どんな特訓をしているのだろうか?

「レッドさん……一緒に走ってたのに……息切れてないの怖いです……」

「俺だって流石に……今日のはきつかったぞ……どんだけヤバいんだよ現役ヒーロー……!」

ホワイトとナギが息を切らしながら言う。
他の生徒や私に比べたら、この2人は立っているだけ凄い。
未来のヒーローだけあって才能があるのだろう。

赤城焔は色んな生徒に声をかけながら何かを配って回っている。
私がぼーっとレッドを見ていると、彼はこちらに歩いてきた。

「よく頑張ったね、ゼリー食べる? 」

レッドはしゃがみ込み、笑顔で私に言う。
またゼリー……何でそんな親戚のおじさんおばさんみたいなムーブを……?

「いやその……今何か食べたらむせそう……」

「可哀想に、君って体力面で言うと才能無いんですねー……今日の授業、きつかったらしいので多分半分くらいは明日からこないかも。
俺はどっちでもいいけど、君もきつかったら今日で辞めてもいいんだよ。」

「ぐ……」

癇に障る言い方だ。「きつかったら辞めてもいい」?
アニメ2期のラスボスであるこのリリアがこんな事で音を上げる訳がない!

私はふらつきながら立ちあがると、レッドの持っていたゼリーを強引に奪い取りその場で豪快に食べてみせる。

「辞めないわよ! 絶対絶対辞めない! 一年やり切ってあんたにぎゃふんと言わせてやる! 」

震えた声で言い切ると、レッドは驚いた顔で私を見るのみだった。

「ふん、青リンゴ味……! 私はレモン味が好きなの、覚えておきなさい! 」

「あはは!元気でいいなー。君達は……才能、ありそうですね。
そんなに元気なら凄いことだよ! ……青リンゴ味で良かったら。」

レッドはそう言ってブラックとホワイトにもゼリーを差し出す。

「ど、どうも」
(レッドに褒められた……! )

ナギはニヤけるのを必死に我慢するような顔でゼリーを受け取る。

「俺は青リンゴ好きですよ!
体力の無さで言ったら他が極端な気もしますけど。ここにゆかり君がいたら絶対乗り切ったのになー」

「ゆかり君? 」

「あの金髪の男の子ですよ! レッド先生に喧嘩売ってた……」

「………あー! 」

ホワイトが言うと、レッドは何かを思い出したように声を上げる。
ナギは驚いた様子で「今思い出したんですか!? 」とツッコミを入れた。

「まずいまずい、生徒にゼリーを配ってる場合じゃなかった! 
えっと……彼、何処にいるんでしたっけ。」

「確か模擬戦闘スペースって言ってましたけど……」

「ありがとう、行ってきます」

彼は急ぎながら何処かへ駆けていった。
……あんな動いた後によく走れるものだ。

「……あんな走った後に模擬戦闘……? いくらレッド先生でも負けるんじゃ」

レッドを見送ったナギが心配そうに言う。

「わからないですよ? 俺見にいきたいなー! 二人も行くでしょ? 」

「や……その……行きたいのはやまやまだけど……私……あるけなく……」

私は壁に寄りかかりながらプルプルと足を震わせる。
今歩いたら絶対に転んでしまう……どころか、膝を曲げたら立てなくなる予感までしていた。

「わー! リリア様生まれたての小鹿みたいです! じゃあ俺が運んであげますね! 」

「きゃっ」

フユキは私の体を持ち上げると、そのままお姫様抱っこのような形で抱き抱えた(だきかかえ)

「うわ……何食べたらこんなに軽くなるんです? 霞? 」

「おまっ……勝手に触んなよ! 」

私を抱えながら淡々と言い放つホワイトに、ナギが噛みつきそうな様子で不機嫌に言う。

「駄目なんですか? 歩かなくてもいいから楽ですよ」

「そういう問題じゃない! 目立つしリリアが嫌がってんだろ! 」

こんな小柄で可愛いのに女子を軽々持ち上げちゃうなんて……! ホワイト最強……! 最高……!

「……嬉しそうですけど。」

「何で!? ……貸せ! 俺がおぶる! お前はリリアに触んな! 解ったな! 」

私はホワイトから剥がされると、ナギの背中に移動させられた。
ブラックの背中におぶられるのもまた、素晴らしい体験だ。

「えー、何で俺じゃダメなんですか? もしかして付き合ってるとか? 」

「違う……」

「なのにそんな『自分の物だから』みたいな扱いしてるんですか、ダッセー。下心があるのバレバレだし! 
リリア様、俺の方が良い時はいつでも言って下さいねっ」

「お前嫌い」

「おぶって貰ってなんだけど…! 仲良くしてよ! 」

私はブラックの背中に揺られながらそう叫ぶのであった。

ーーー

ナギにおぶられたまま模擬戦闘スペースまで向かうと、
私はナギに降ろしてもらい、手すりに捕まりながらこれから戦うであろう2人の様子を見ていた。
模擬戦闘スペースには私たちの他にもたくさんの野次馬が集まっている。

ここはレッドを応援したくなるところだが、どうもひっかかる。
あの金髪坊主……やはり「あの人」なんじゃ……

「来たか、あんま待たせんなよ」

「ごめんね、ちょっと忘れかけてて……」

「ああ!? 」

「やろうか、試合。俺が負けたら授業に来なくなるんだっけ? 君が負けたらどうするの? 」

「その時はこの学校辞めてやるよ」

金髪坊主の言葉を聞いてザワつく現場。
かなり大きく出たようだ、かなり自信があるのだろう。

「俺の能力は音を操る能力……!
知ってるか?音波で炎は消せるんだ。あんたには勝ち目がないぜ」

「そうなんだ、困ったな」

レッドは穏やかに笑ったが、その目の奥は笑っていないように見えた。