手には黒い小さな猫。
そうして、左手側から迫ってくる車。

何もかもがスローモーションのように見えた。
どうしようもなくて、思わず目を閉じる。

本当はスキー場で死んでたんだもんね、私。
いまさらもう、どうしようもないのかな。

パパ、ママ。
先に逝ってゴメンね。
二人の娘で居られて幸せだったわ。

ゴメンね、キョウ。
また、次のリリーが生まれ変わるの待ってあげて?
あなたならきっと探し出せるわよね。

今までありがとう、さようなら。

胸の奥でそれだけのことを呟いてもなお、私の身体は跳ね飛ばされはしない。
スローモーションってどのくらいスローなのかしら。

死ぬ直前に考えるにしては、随分と間抜けなことに想いを馳せる。



「危ないなぁ、ユリアちゃん」

思いがけない懐かしい声が、私の鼓膜を揺さぶった。