よくさぁ、一生分の涙を流す、なんて言うじゃない?
あれって、何日くらい泣き続けることを言うのかしら。

私、残念なんだけど30分も経たないうちに、涙が枯れちゃったみたい。
嗚咽すら止まってしまって、正直、どうすれば良いのか分からない。

静かなはずの部屋の空調の音が、やたらと煩く聞こえる始末。

「ハニー、そろそろ可愛い顔を見せてくれてもいいんじゃないかな?」

飽きも、投げもせずに私の背中を撫でたり叩いたりしてくれていたキョウが、蜂蜜を溶かしたような甘い声で囁いた。

ドキン、と。
心臓が跳ねる。

正直言えば、私は何もかも思い出していた。

今年の春、キョウが突然現れたことも。
一緒に暮らし始めたことも。
そして、スノーボードに行って、誰かに背中を刺されてそれから記憶を失っていたことも。

でもさぁ?
普通こういうときって「記憶をなくしていた間の記憶は消える」んじゃないの?
お約束として、さぁ。

すっごく残念なんだけど、私は記憶をなくしていた間の記憶も、きちんと覚えていた。

ユリアやママがお見舞いにきてくれたこと、とか。
ジャックに心が揺らめいたこととか。
……ジャックが消えていったこと、とか。